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◇埼玉パナソニックワイルドナイツ戦マッチレポート

前半14分、西端がトライを決める

 清水建設江東ブルーシャークスは9月12日、熊谷ラグビー場Bグラウンド(埼玉県熊谷市)で今季初のプレシーズンマッチに臨み、埼玉パナソニックワイルドナイツと対戦した。40分×2本に20分を加えた変則形式で行われた一戦は、35-48で敗れた。この試合のテーマは「BOOST STANDARD」。昨季ディビジョン1で3位の強豪を相手に、自分たちの現在地と、引き上げるべき基準を確かめる一戦となった。

試合後、スタンドに向かって一礼するブルーシャークスの選手

 9月半ばとは思えない強い日差しが、鮮やかな緑の芝にブルーシャークスの選手たちの濃い影を落としていた。暦の上では秋へ向かいながら、グラウンドにはまだ夏の熱気が残っていた。戦いを終えた彼らの目に映ったのは、無数のトンボが行き交う青空の下、立ち上がって自分たちを迎えるパナソニックの応援団だった。積み上げてきたものを随所で示し、国内トップクラスの相手と最後まで渡り合った。一礼する選手たちに、スタンドからは大きな拍手が降り注いだ。

 磨き続けてきたセットプレーの真価は、強豪を前にしても揺るがなかった。0-7で迎えた前半14分。相手22メートルライン内の右サイドで得たスクラムで、FW陣が強烈に相手を押し込んだ。そこを起点とし、フルバックに入った西端がボールを受けると、相手のマークを振り切ってインゴールへねじ込んだ。追加の20分では、左サイドを抜け出した金村から松尾へつなぎ、最後はオフロードのパスを受けたヘプテマがトライ。流れの中からでも相手を崩し、得点につなげた。ブルーシャークスは、国内トップレベルの相手に対して堂々と戦い抜いた。「全体練習を再開して1ヶ月くらいだけど、短い期間でもやってきたことが試合で出せた。試合での再現性のスピードが上がっているのはすごく良かったです」と吉廣ヘッドコーチは手応えを口にした。

スクラムを組む李

 昨季のディビジョン2では、最終節で2位に浮上し、目標としていたディビジョン1との入れ替え戦に進出した。チームにとって大きな前進だったことは間違いない。しかし、吉廣が感じたのは安堵よりも、この先へ進むためには、さらにチームを変えなければならないという強い危機感だった。

 その思いは、このオフの過ごし方にも表れた。「今年が一番忙しかったかもしれない」と吉廣は振り返る。以前は、世界中の試合を分析し、気づきをA4ノート約200枚に書き留めながら、ブルーシャークスに生かせるものを探してきた。だが、このオフに向き合ったのは、自分たち自身だった。ブルーシャークスが勝つためには何が必要なのか。そして、それを成し遂げるために、限られた練習時間をどう使うのか。これまでの取り組みを一つずつ見直した。

 まず変えたのが、練習の優先順位だった。基準にしたのは、自分たちが得意かどうかだけではない。試合の中でその局面がどれだけ起こり、勝つためにどれだけ必要なのか。たとえラインアウトからの攻撃が強みでも、試合で一度しか訪れないのであれば、そこに多くの時間は割かない。アタックやディフェンスなど各領域で取り組みたいことを並べ、吉廣がその週に何を優先するのかを整理した。進みが十分でなければ、優先順位の低いものは後に回す。限られた時間を、勝つために本当に必要なものへ集中させた。

グラウンドに向かうケプFWコーチ

 コーチ陣の関わり方も変わった。以前は担当コーチが自分の領域を中心に見ていたが、今季はほぼすべてのセッションに複数のコーチが加わり、それぞれが自分の経験や専門性を生かして改善できるところを探すようになった。誰が何を見るのか。それを吉廣が事前に表にまとめ、浦野、坂本、宮本、権丈、ケプらが異なる視点から一つの練習を見ながら、その場で選手を指導する。担当の枠を越えてコーチ陣の経験や知見を生かし、限られた時間の中で選手から少しでも多くの成長を引き出すための細やかな工夫だった。

 レビューでは見るべきポイントを明確にし、練習の合間の待ち時間や、ジムから早く上がってきた時にもスキル練習を入れた。「練習時間が短い」と嘆くのではなく、まだ使える時間はないかを探した。そうして一日の隙間まで、選手の成長につなげていった。「選手の1分のために、僕らは1時間かける」。シーズン前にコーチ陣が掲げたその言葉は、彼らの姿勢を端的に表していた。

攻め上がる金村

 変わったのは、教える側だけではない。ディビジョン3を戦った3シーズン前は、ほとんどの選手が一度は公式戦のピッチに立った。吉廣自身、それがチームをつくることだと考えていた。しかし、チームの競争力が高まった昨季は、公式戦で1分も出場機会を得られない選手が少なくない数に上った。試合に出ることは、もう約束されていなかった。「やらないと試合には出られない」。その現実が、選手たちの中にも入り始めた。

 その変化は、日常の風景にも表れている。クラブハウスでは、食事をとりながらその日の練習映像を見返す選手が目立つようになった。以前は練習の終盤になると聞こえていた「今何時ですか」という声も、ほとんどなくなったという。やるべきことが明確になり、それをやり切らなければチーム内の競争を勝ち抜いていくことができない。選手たちは時間の経過を忘れ、目の前の練習に没入するようになった。今では、一つ一つのプレーで、なぜそこに立つのか、いつ動くのか、何を狙うのかまで意識している。単にミスをしたかどうかではなく、動き全体を考えながらプレーするようになった。限られた時間をより有効に使う取り組みと、選手一人一人の目的意識の高まり。その両方が、練習で積み上げたものを試合でより高い精度で出す力につながっている。

必死にボールキャリーする松土

 その先に吉廣が見ているのは、目の前の勝敗だけではない。チームにとって、勝利も敗戦も、成長も失敗も、やがて歴史の一部になっていく。しかし、選手一人一人にとって、そこで過ごした時間が彼らのラグビー人生の全てだ。「他のチームに行くよりブルーシャークスに行って成長できた、というふうにしないといけないと思っています」と吉廣は言う。目指すのは、限られた時間の中でも選手が成長を実感し、「ここでラグビーをやってよかった」と思えるチームをつくること。その実感が、チームへの信頼と愛情を育み、苦しい時にも立ち返ることのできる共通の基準になっていく。そうした経験を一人一人が積み重ねることが、やがて簡単には揺らがないチームの礎になる。

 この日、チームが掲げたテーマは「BOOST STANDARD」。引き上げ続ける基準の先にあるのは、ディビジョン2での優勝やディビジョン1への昇格だけではない。一人一人が費やした時間を、「ここでラグビーをやってよかった」と肯定できるチームであること。そのためには、どんなライバルを前にしてもプライドを持って戦えるチームにしなければならない。秋の深まりには未だ遠い熊谷のグラウンドで、ブルーシャークスはその未来へ向かう確かな一歩を記した。


◇吉廣HC 一問一答

試合後の選手に声をかける吉廣ヘッドコーチ

質問者:本日の総括をお願いします。

吉廣HC:今日は結果にこだわると言ったんですけど、実際、中身としては結構良かったかなと。スクラムやモールはすぐ強くなるものではないので、長期で積み重ねてきたものについては、どういう相手でもそこはいけるっていう自信をみんな持っています。

アタックは少しいじったところがあるんですけど、その形から前半にトライも取れた。積み上げなきゃいけないところと、1ヶ月ぐらいで試合に出せる、その再現性みたいなところのスピードが上がっているのはすごく良かったですね。

質問者:去年と同じように戦術練習を少し後ろ倒しにしたスケジュールに慣れたのか、それともスキル自体が上がっているのでしょうか。

吉廣HC:今年はスキルをすごくやったんです。ジムの時間にプラスして、ハンドリングスキルに一回しっかり時間をかけようとなった。スキルがあると再現性も高くなるので、遂行する精度もどんどん上がってきたかなと思います。

パナソニック相手に、その形でラインブレイクするのはすごく難しいんですけど、そこが結構見えた。「今の形、これをやって最後通っていれば全然いけたよね」っていうのが今日分かったのは、練習をしていく上では非常にありがたいですよね。

 攻め上がる小西

質問者:プレシーズンの最初から、これだけ強い相手とやる意味も大きいですね。

吉廣HC:相手が強くないと、ミスしても傷が大きくならないので、それに気づかず「良かった」となってしまう。でも今回は、通らなかったから逆に2本取られた、ということが起きる。そこは良かったです。僕たちは相手よりもハードワークすることを掲げてやっている中で、あのようにどんどん仕掛けていく相手を見られたのも勉強になりました。

質問者:最初から強い相手とやりたかったんですか?

吉廣HC:やりたい相手とやりたいっていうのが一番強かったです。去年は最終節を終えた翌日に近鉄ライナーズが負けたことで入れ替え戦の出場が決まりました。だから「タイミングや運がよくて入れ替え戦にいけたんだ」みたいにみんなが思うのは嫌だった。

スタンダードを上げる意味では、ハイスタンダードの相手に、こちらも一部のいいメンバーだけじゃなくて全員が出て、やるべきことをできるか確認してもらう。それが、その後のモチベーションやフィードバックにもいい方向に行くと思っていました。

ラインアウトのボールをキャッチする佐藤

質問者:オフはどう過ごしましたか。

吉廣HC:今年が一番忙しかったかもしれないですね。去年まではいろんな試合を見て、「うちだったらどうか」と当てはめて、合うものを探していた。でも今回はもう少し自分たちにフォーカスして、何ができるか、それをやるためにどういう組み立てをするかに時間をかけました。

それぞれの領域でどういう目的があって、そのためにどんな指標を取るのかというところから見直しています。勝つために何が必要なのかを設定して、練習でも優先順位を作るようにした。

コーチ陣も今は、ほぼ全員が全部のセッションで稼働しています。以前なら一つの練習を担当コーチが見て、ほかのコーチは気づいた時に言う形だった。でも今は、それぞれが毎回、自分の専門性を使う。

「選手の1分のために、僕らは1時間かける」というスローガンをコーチ陣で掲げたので、一個一個の質を上げるために、まだできることがあるんじゃないかと。

質問者:選手のモチベーションも高いですね。

吉廣HC:競争だと思います。「今のままじゃダメ」とか、周りに引っ張られてどんどんやっていく、やらないのが少し浮く、みたいな雰囲気にはなってきているのかなと思います。練習の質も強度も上がっているので、やらないと、見ないとついていけない。「なんとなくやる」という時間がなくなったんじゃないかなと思いますね。

一回一回のプレーを、ミスした、しないだけではなくて、動き全体としてちゃんと意識してやるようになった。最初のディビジョン3の時は、それがチームを作ることだと思ってほとんど全員を公式戦に出しました。でも去年は、本当に1試合も出られない、1分も出られない選手も出た。そこで、「やらないと試合には出られない」という現実がみんなに入ってきたんじゃないかなと思います。

一方で、試合に出られない選手を出られるレベルまで持っていく、若手を短い練習時間の中で育てるのは僕らの責任です。「他のチームに行くよりブルーシャークスに来て成長できた」と思ってもらわないといけない。会社員として仕事が安定していることに、僕らが甘えるわけにはいかないんです。

 試合前の宿舎でミーティングするブルーシャークスの選手ら

質問者:昨季と比べて、コーチ陣が選手に求める基準も厳しくなっていますか?

吉廣HC:そうですね。去年はコーチ陣も「こういう環境の中、これだけハードワークしてくれてありがとう」というところから始まっていたと思うんですけど、最近はあまり言わなくなりました。「いい試合をすればいい」ではなくて、どういう状況でも、苦しくてもやらないといけない、もっとできるし勝たなきゃいけない、という言い方になっています。

ただ、今日は良かったと言っていいと思いました。日本人選手は仕事をしながら、オフも短い中で取り組んできた。その中で、客観的に見ても再現性が高かったし、この1ヶ月で新しく取り組んできた形から、パナソニック相手にラインブレイクしてトライまで取れた。それは当たり前のことではないので、そこはちゃんと「良かった」と言いました。

質問者:西端選手はフルバックで出場しましたね。

吉廣HC:もともとフルバックの方が適性はあると思っています。ウイングで結果を出して自信もついたので、今度はスペースのあるところでボールタッチを増やした方がいい。本人からもやりたいという希望がありましたし、フルバックは責任も大きいので、そういう経験をさせることも大事だと思っています。

 ミーティングで選手と話す吉廣ヘッドコーチ

質問者:プロ選手が主体のチームとのフィジカルの差を今の戦術を積み重ねていけば、ひっくり返せるという感覚はありますか?

吉廣HC:コンタクトスポーツなので、やってみないと分からないのが正直なところです。でも、ある一定以上のフィジカルは絶対に必要で、そこの基準には結構きているんじゃないかなと思っています。もちろんもっと必要ですけど、そこから先はなんとかなるかなと。

ただ、一発勝負で戦えることと、ディビジョン1で18試合戦うことは全然違います。連戦になればなるほど、僕らは準備して勝つチームなので、それまでの積み重ねだけで戦わなきゃいけなくなる。だから層を厚くして、リザーブもスタメンもローテーションできるぐらい、スコッド(総勢メンバー)全体が戦えるようにならないと苦しい。

最初にディビジョン3に落ちてヘッドコーチになった時は、この状態からディビジョン1は遠い目標だと思っていました。でも今は、めちゃくちゃ苦しいけれど対応や努力のしようはある、というところまでは来た。今日の試合だけを見ると、進捗としては良かったんじゃないかなと思います。

試合前の円陣で気合いをいれるブルーシャークスの選手

質問者:今がすごく大事な時期なんですね。

吉廣HC:この先、絶対にすごく大変なことがある。その時に「こうやって積み重ねてきたでしょ」と言えるくらい、今、経験を積み上げていければいい。言っていたことをやったらできた、という経験があるうちは、「信じていれば大丈夫」と言った時に、選手も「確かにそうだね」と思える。

流れがいい今のうちに、成功体験とか、自信とか、楽しさとか、「このチームが好き」「ここでラグビーをやりたい」というものを積み上げてほしい。「この体制でこういうふうにやれば、ここまではいける。だからもう一回立ち返ろう」という場所を今作る。ディビジョン1に上がるというより、そういう基盤を作ることの方が、まず最初にやらなきゃいけないんじゃないかなと思っています。