◇日本製鉄釜石シーウェイブス戦マッチレポート

清水建設江東ブルーシャークスは5月9日、サンディスクスタジアムきたかみ(岩手県北上市)で行われたNTTジャパンラグビー リーグワン2025-26 ディビジョン2 最終節に臨み、日本製鉄釜石シーウェイブスを31-10で下した。3トライ差以上の勝利でボーナスポイントも獲得。勝ち点「5」を加えて合計を「45」とした。翌10日、2位を争っていた花園近鉄ライナーズが敗れたことにより、両チームは勝ち点、勝利数ともに並んだものの、直接対決2試合の勝ち点でブルーシャークスが上回り、最終順位2位でのフィニッシュが確定。チーム史上初となるディビジョン1との入替戦進出を決めた。入替戦はディビジョン1で11位の浦安D-Rocksと2試合制で対戦。第1戦は同23日、第2戦は同30日で、いずれも夢の島競技場(東京都江東区)で行われる。

花道に並ぶ選手たちの表情が、ふっと緩んだ。釜石戦の翌日、東芝府中グラウンドには5月の強い日差しが降り注いでいた。前日の試合を戦い終えたメンバーは、練習試合に向かうチームメートを送り出すため、天然芝のピッチに並んでいた。花園近鉄ライナーズ敗戦の報が届いたのは、その時だった。ブルーシャークスのディビジョン1との入替戦への進出が決まった。昨季、ディビジョン2残留をかけた入替戦をギリギリで乗り越えたチームが大躍進で掴んだ、チーム史上初の快挙だった。
「なんか、そわそわする」。誰かがそう言うと、選手たちは笑いながら顔を見合わせた。喜びを隠しきれない。それでも、ジャージーをまとった仲間たちがピッチへ向かう時間になると、空気は自然と切り替わった。大きな声が飛び、次々とハイタッチが交わされる。前日の釜石戦に向けて自分たちを支え、共に準備を重ねてきたチームメートを全力で送り出した。
その姿こそが、仁木監督が大切に育ててきたブルーシャークスの文化だった。自分にとって理想のチームとは何か。「悔しい気持ちも嬉しい気持ちも、全員が同じ温度感を持てることが、いいチームの証だと思っています」。監督就任から3年。仁木は揺るぎない信念のもと、このチームを導いてきた。

グラウンドでの戦術や技術指導は、信頼するコーチ陣に全て委ねた。その分、自分にしかできない役割と向き合ってきた。チームには吉廣ヘッドコーチ、権丈コーチ、ケプコーチと、ラグビー界で確かな実績を築いてきたスタッフが並んでいる。だからこそ仁木は、練習中に後ろから全体を見渡し、選手たちの動きや表情を見て、心の状態を感じ取ろうとした。必要だと感じれば、選手のもとへ足を運んで声をかけた。試合でトライを決めた選手には「らしいトライだったな」と近づき、ともに喜んだ。「監督に気にかけてもらえていると思ったら、やっぱり選手は嬉しいと思うんですよ」。地味に見えるその作業を、仁木は貫き通した。
悔しい敗戦の後でも「下を向くのは禁止だ」と選手を鼓舞して自ら姿勢を示し続けた。リーダーとして、常に強くあろうと努めてきた。そして、そのための努力を惜しまなかった。昨年1年間、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科の修士課程で学びながら、チームビルディングを経営の視点から捉え直した。スポーツ界や経営界など各界のリーダーたちと直接言葉を交わして、その一言一言を自分の中に刻み込んだ。本やYouTubeにも貪欲にアンテナを張り続けた。夜通し論文と向き合い、朝を迎えてから仕事へ向かい、そのままグラウンドに立つ日もあった。どんな言葉をかければ、選手の心に届くのか。どれくらいの長さで伝えれば、胸に残るのか。徹底的に考え抜いた。優れた戦術も、選手の心が動かなければ意味がない。どれだけ優秀な指導者がいても、一人ひとりが同じ方向を向かなければチームにはならない。だからこそ、仁木は人の心に向き合うことにこだわった。費やした時間の重みが、その言葉に確かな力を与えていた。

その積み重ねはシーズンの最終盤に形となって表れていた。釜石戦を2日後に控えた夜。全体練習が終わった後も、グラウンドにはまだ選手たちの声が響いていた。時計の針は22時を回っていたが、安達、白子、大和、長谷、ヴァイラヌらフォワード陣が居残り、ラインアウトの確認を続けていた。そこには、近畿大学からアーリーエントリーで加わり、この釜石戦で初めて公式戦メンバーに名を連ねた弓部の姿もあった。彼らは大一番を前にした若い仲間を戦力として送り出すために、自分たちの時間を差し出していた。
疲れていないはずがない。翌々日にはシーズンの行方を左右する一戦が待っていた。それでも誰ひとり妥協しなかった。ラスト1本を前に、白子が声を張った。「最後に最高なやつを決めよう」。ただ終わらせるための1本ではなかった。仲間のために、自分たちの誇りのために、最後まで基準を下げない。その光景にあったのは、チームへの愛情であり、仲間への信頼だった。仁木が目指す「いいチーム」が、現実の形になろうとしていた。

チームの成熟は、釜石戦で確かな強さとなって表れた。試合前、2位の花園近鉄ライナーズとの勝ち点差は「4」。逆転での入替戦進出へ、ブルーシャークスに求められたのはボーナスポイントを伴う勝利だった。強風の風下からのスタート。小雨が舞う難しいコンディション。それでもチームは前半から自分たちのラグビーを貫いた。前半21分には、2日前の夜に選手たちが確認を重ねていたラインアウトからモールを押し込み、タリトゥイがトライ。前半だけで4トライを奪い、31-10で勝ち切った。
「たぶん去年までだったら、このようなプレッシャーのかかるゲームで冷静になれずに、とにかく前に出てフィジカルで圧倒しようということだけを考えてプレーしてしまったと思います。今は全員がフィジカリティーに自信を持てているからこそ、冷静に周りをしっかり見て、規律を保つことができました」。安達キャプテンの言葉が、チームの変化を雄弁に物語っていた。仁木監督の思いが土台となって、ブルーシャークスは重圧の中でも自分たちを見失わない集団へと変貌を遂げた。その歩みの先で、チームはついにディビジョン1への挑戦権をつかみ取った。

練習試合を終えた後、円陣の中心で仁木監督が口を開いた。「入替戦が決まりました。これは皆さんのハードワークの賜物だと思います。ただ、ここがゴールじゃない。ここからがスタート。浮かれるのは今日までにして、また我々らしくやっていきましょう」。短い言葉の中に思いがこもっていた。フルタイムで会社員として働きながら最高峰の舞台への挑戦権を手にした選手たちへのリスペクト。そして彼らを支えてここまで歩んできたスタッフ一人ひとりへの感謝。このチームで頂点を目指すという大きなストーリーの主人公として生きている、自分たち自身への誇り。夕暮れが迫ってもなお輝きを失わない、この季節の太陽の下、仁木の言葉はひときわ力強く響いた。
◇仁木監督、安達航洋キャプテン会見

質問者:本日の総括をお願いいたします。
仁木監督:まずはじめに、大槌町の山林火災で、多くの方が大変な状況にある中、釜石シーウェイブスさんを含め、皆さんにご尽力いただき、本日の試合を開催していただいたと思っています。本当にありがとうございました。
我々は釜石さんにシーズンで2勝したことがありませんでした。今日しっかり勝ち切って、初めて2勝したことに関しては、チームの成長を感じられましたし、本当にたくましくなった選手の姿を見て喜ばしいなと思いました。後半も含めてまだまだ課題はありますが、しっかり反省しながら課題を克服していきたいと思います。本日はありがとうございました。
安達選手:まずはじめに、この試合にご尽力いただいた関係者の皆様、ありがとうございました。絶対にボーナスポイントを取って勝たなければいけないプレッシャーのかかる試合でしたが、前半にいい形で先制することができ、立て続けにトライを取って試合を優位に進められました。そこで徐々に硬さが取れて、自分たちらしいラグビーができたのかなと思います。
ただ、シーズンを通して80分間一貫してクオリティの高いプレーをするというところについては、まだまだ課題があるなと今日も感じました。入替戦があるかどうかはわかりませんが、来季に向けて、そこはもっともっと成長していかなければいけない部分だと感じました。本日はありがとうございました。

質問者:明日の試合を待っての結果とはなりますが、今季ここまでの戦いぶりを、監督はどのように評価されていますか。
仁木監督:昨季は入替戦に行き、ギリギリの中でD2残留ができたシーズンだったと思います。今季はその悔しくて大変だったシーズンの課題、具体的に言うとフィジカルやセットピースの積み上げの部分をチーム全員がしっかり克服しようとすることから始めました。ギリギリの試合もありましたが、去年では負けていたところで勝ち切れた部分は、着実に成果が出てきたのかなと思っています。
ただ、我々は上の入替戦に行くことが目標でしたので、明日の結果を待たなければいけない位置にいること自体が非常に悔しいなと率直に思っています。もう少しできたんじゃないかというところは、おそらく選手もスタッフも内に秘めていると思います。
もし明日の結果で次につながった場合は、我々もそういったところをしっかり表現したいと思っています。もし次に進まず今日が最終戦だったということであれば、入替戦に行くという目標を達成できなかった反省や課題について、また今年のようにチーム一丸でしっかりやっていって、来季必ず入替戦に行き、D1昇格を手繰り寄せたいと思います。
質問者:1年間やってきて、チームで成長を感じた部分はどういったところにありますか。
安達選手:昨シーズンはギリギリのところで負けてしまう試合がシーズン終盤に続いてしまいました。今シーズンもなかなか厳しい試合が続きましたが、最後そこで勝ち切れたところです。
アタックであれば22m内に入った後にしっかり取り切れるところ、ディフェンスでもゴール前に来られた後にしっかり粘ることができるところです。そういったメンタリティーやフィジカルの部分を1年間通してやってきたことが試合にしっかり出て、最後勝ち切れたところが、一番成長できたところかなと感じています。

質問者:絶対に勝たなければいけない試合、しかもボーナスポイントを取らなければいけない試合でした。向かい風の難しい状況だったと思いますが、その中でトライを重ねられた要因、どこが良かったのかをお伺いしたいです。
仁木監督:やっぱり戦う姿勢をしっかり出していこうというところです。釜石さんは順位では下から2番目ですが、我々はシーズンで釜石さんに2勝したことがありませんでした。去年は初戦に負けていることもあり、釜石さんを乗らせてしまうと非常に脅威になります。そういったところに対して、ディフェンスをしっかり前で止めていこうというところでした。
風下でかなりタフな場面だったと思いますが、しっかり体を張って守ってくれました。かつ、前半はペナルティーが少なかったと思いますので、そういったところは本当に選手の努力の賜物だと思います。
安達選手:ゲームプランとしては、本当は風上を取ってこちらからどんどん攻めていきたかったのですが、私がコイントスで負けてしまったので、少しプランが変わってしまいました。ただ、しっかり我慢できたところが一番の要因かなと感じています。
雨で難しい入りでしたが、こちらがしっかり我慢できました。22m内に入った後に、釜石さんが激しく前に出てきていた中で、ブレイクダウンでしっかりボールを確保できました。そこで我慢してフェーズを重ねてトライを取り切れたところは、勝利につながったのかなと感じています。

質問者:エナジーを高めていくことが必要なこの試合で、そのエナジーを丁寧なプレーにつなげられたのは、どういうところが良くなったからでしょうか。
安達選手:たぶん去年までだったらこのようなプレッシャーのかかるゲームで冷静になれずに、とにかく前に出てフィジカルで圧倒しようということだけを考えてプレーしてしまったと思います。今は全員がフィジカリティーに自信を持てているからこそ、冷静に周りをしっかり見て、規律を保てたところが成長できた部分かなと感じています。
あとはリーダー陣です。ディフェンスであればシオネ、アタックであればビリーが積極的に声をかけてくれて、今何をしなければいけないかがすごく明確になっていました。そこが規律を保てた要因かなと感じています。
質問者:前節、監督は日本一のチームになるとファンの前で宣言されました。具体的に、この1年を通してどのようなところに手応えを感じて、そのような思いになったのかを教えてください。
仁木監督:まずは見ての通り、去年よりもジャンプアップしているこの結果が得られたところです。
2つ目は試合の勝敗よりも、選手が仕事とラグビーを両立しながらハードワークをしているところです。外国人選手はおそらく昼に練習したいと思うのですが、日本人選手が夜に来るため、昼はコーチ陣とともに積極的にミーティングをしてくれています。コーチ陣もそれに合わせて朝からグラウンドに来て、夜から練習と本当にハードワークをしてくれていて、感謝しかないなと思っています。この姿勢があれば、間違いなく日本一はできると思っています。
もちろん大きな課題や難局があると思いますが、このチームは助け合ったり、全員が同じ方向を向いていて、だからこそ悔しさと嬉しさを共有できています。本当に手前味噌ですけど、めちゃくちゃいいチームだと思っています。なので、このいい文化があれば、間違いなくすぐにD1、そして近い将来日本一になれると思っています。

質問者:絶対に勝たなければいけない試合ということで、ブルーシャークス史上おそらく最も大事な一戦の一つだったと思います。その大事な試合に勝ち切れた今の率直な気持ちを教えてください。
仁木監督:本当に、ほっとしたというのが一つです。勝って天命を待つじゃないですが、選手、スタッフのおかげでこういう状況にいさせていただけることに感謝しかないと思っています。本当に明日の結果如何でこの先がどうなるかはわかりません。ただ、どんな結果であったとしても我々はいいチームですから、受け止めながらやっていけるんじゃないかなと思っています。
安達選手:私も同じく、ほっとしているというのが率直な気持ちです。本当にプレッシャーのかかるゲームで、絶対に勝たなければいけないというのはわかっていたので、だからこそアップから少しチーム全体に硬さがあるなというのは感じていました。ただ、ゲームに入ったら今までやってきたことをしっかり試合に出せたので、本当にチームとして成長できたことをすごく実感できた、いいゲームだったのかなと思います。

質問者:お二人は総評が始まる一言目に、毎回試合開催にあたっての感謝を伝えられています。今日はスタジアム変更なども直前にあり開催が難しい状況だったと思います。さきほど一言目にかけた思いを、改めて教えていただけますか。
仁木監督:釜石さんは、できればホームである釜石鵜住居復興スタジアムでやりたかったと思います。ただ山林火災の影響でそれができない中、釜石さんからも早くご連絡をいただいていて、北上になるかもしれないという話がありました。北上に変更してから宿泊施設を取るのもなかなか厳しい中だったにもかかわらず、いろいろな方にご尽力いただき今日試合ができました。ブルーシャークスもどちらの会場になってもいいように準備を怠らずやってきましたので、チームに対しても本当に感謝しています。リーグ戦が開催できなければ、こういった勝敗もなく、こういった会見の場所に座ることもできません。関わってくださったすべての方々に、本当に感謝だと思います。
安達選手:本当に全ての試合で、開催にご尽力いただいた関係者の皆様のおかげで試合ができています。今日に関しては、山林火災の影響で急遽会場が変更になった難しい状況の中で、こういった素晴らしい環境を整えてくださった関係者の皆様に、本当に感謝を伝えたいなと思います。
質問者:ありがとうございました。
◇仁木監督 一問一答

質問者:監督はブルーシャークスのことを最近「いいチームだ」と繰り返し表現しています。監督にとって「いいチーム」とは、どういうチームでしょうか。
仁木監督:悔しい気持ちも嬉しい気持ちも、全員が同じ温度感を持てることが、いいチームの証だと思っています。スタッフも選手も含めてです。いろいろな観点や、先人の監督の方々の考え方もあると思うんですけど、悔しい時にみんなで悔しい顔をして、次頑張るぞという時には頑張る顔をすることが、めちゃくちゃ大事だと思っています。
試合に出ている人だけが悔しいのではなく、今のチームの状況を見ていると、選手全員が悔しい顔をしてくれていますし、「もっとやるぞ」「試合に出たい」という顔をしながら練習してくれています。同じ空気、同じ温度で、喜怒哀楽を共有できていることは非常にいいことだと思いますし、それがいいチームの証というか、チームの基準だと思っています。

質問者:チームビルディングをする上で大切にしていることは何でしょうか。
仁木監督:グラウンドに関しては吉廣にすべて任せています。吉廣のおかげで、俯瞰して物事を見られる位置にいられるんです。彼がヘッドコーチじゃなければ、私はもっと中に入ってしまっていたかもしれません。コーチ陣がプロフェッショナルだからこそ、後ろにいると、ちょっとした歪みや緩んでいる雰囲気をすごく感じます。
だからこそ練習中、悩んでいる選手に対しての声かけはやっていこうと思っています。練習中全員に対しては無理ですけど、半分ぐらいの選手には話しかけていると思います。「ちゃんとやれよ」と言うよりは、少しとんちの効いた言葉をあえてかけるようにしています。
選手も仕事とラグビーを両立していますし、吉廣もしっかりやってくれている中で、「じゃあ監督は?」と言われた時に、やっぱり仕事もしないといけないと思っています。吉廣の手が届いていないリクルートやスポンサー営業のところで存在価値をしっかり示しながらやっていくことですかね。吉廣、権丈、ケプ、宮本も含めて、コーチ陣みんながプロフェッショナルでしっかりしてくれているからこそ、後ろで見ていられる。そうすると、ちょっとしたチームの歪みや緩んでいる雰囲気をすごく感じられるんです。
質問者:普段の声かけや円陣など、そこで発言できる短い時間をすごく大事にしているとおっしゃっていました。その声かけを大事にする上で、どのようなところから学びを得ているのでしょうか。
仁木監督:いろいろな監督や経営者の本をよく読んでいて、YouTubeも見ます。あとはスポーツ界や経営界など各界をリードしてきた方々とお話しさせていただける機会があり、「これ生かせるかもな」、「確かにこういう目線で見ていなかったな」と感じます。どちらかというと経営者目線の部分もあると思っています。「ここはダメだな」「これ全然言われた通りにできていないな」ということも、そのような中で気づかされる部分が多いかもしれません。

質問者:その中で印象に残っている言葉や、大事にしている言葉、エピソードはありますか。
仁木監督:言いたいことはたくさんあるんですけど、それを全部話してしまっては伝わらない部分が多くなります。だから長く話すよりも、最近は特に短い言葉で伝えるようにしています。九州電力(キューデンヴォルテクス)戦では「これは受け売りだけど」とあえて言いましたけど、「選手である前に戦士であろう」と伝えました。サッカー元日本代表の槙野智章監督(藤枝MYFC)の言葉ですね。「すごいいい言葉」だなと思いました。ただ、それを自分の言葉として言ってバレたら恥ずかしいので、「受け売りだけど」と言いました(笑)。シンプルで、届けたい言葉以外は、今季は特に言わなくなったかもしれません。
質問者:確かに仁木監督の言葉はいつもシンプルで短いです。
仁木監督:生きた言葉でなければ意味がないので、かつ胸に届いてほしいフレーズを話すようにしています。昔は、ある程度文章を考えて話していましたけど、それでは気持ちが伝わらないなと思いました。カンペを見ながら話す人の言葉って、あまり入ってこないじゃないですか。それと一緒で、そこは自分の中で意識しています。

質問者:去年まで大学院にも行っていらっしゃいましたよね。
仁木監督:はい。早稲田の大学院でスポーツ科学研究科修士課程ですね。
質問者:多忙な中、チームに自分の時間を注いでいることが皆に伝わっているから監督の言葉が響くのだと思います。自分の時間を使うのは本当に大変なことだと思うのですが、どのような思いからそのような努力ができるのでしょうか。
仁木監督:与えられた使命というか。うちは特殊なチームじゃないですか。仕事とラグビーを両立しているからこそ、「仁木監督ってこんなことをしているのか」と想像もできるチームだと思っています。
大学院に行くとしても他のことを疎かにするのではなく「今やっていることをより一層頑張らなくては」と思っていました。その年はスポンサーセールスもかなり頑張りましたし、今年もいくらか増えたと思います。
大学院に行っている時はほとんど寝ていなかったです(笑)。朝4~5時頃まで論文を書いたり研究したりして、6~7時頃から仕事をして、大学院にも行くという生活でした。たくさんのスタッフに助けてもらいました。
一つのことをやる代わりに何かをおろそかにしてしまうと、底の浅い人間に見られる気がして嫌なんです。そこは吉廣と通ずるものがあるのかもしれません。やるからには今やっていることよりももっとプラスのことをしてやると決めたので。家族は大変だったと思います。

質問者:これからどのような監督になりたいですか。
仁木監督:もっと何もしなくていい状態になればベストだと思っています。今は正直、いろいろなことが属人的すぎるじゃないですか。グラウンドに関してはもうほぼやることはないんですけど、もっともっと全員が前に出てきてくれて、「あれ、そんなことになっているの?」と私が言えるようになれば、逆にチームとしていいんじゃないかなと思っています。
質問者:経営者の目線ですね。
仁木監督:父親も一応経営者なので、そうかもしれないですね。コーチ陣が全員すごく良くやってくれていますので、もっともっと僕が外に追いやられるような組織になった方がいいんじゃないかなと思います。それは、コーチやスタッフが成長しているということじゃないですか。今でも相談してもらうことはあるんですけど、そうではなくて、「こうしました」と言ってもらえるようになったらいいのかなと思います。チームに絶対になければならない背骨みたいなものがぶれた時に、「違うんじゃないの」と言うぐらいの立場が一番ベストなのかなと。
質問者:そのためには継続して勉強をしなければいけないですね。
仁木監督:そうですね。本当に、おかげさまで人生で初めてちゃんと勉強したのが早稲田の大学院でした。この勉強の習慣ができたことは大きいです。だから初めて何かしら本を読む習慣ができました。大学院で、本って面白いなと思ったんです。月に2冊ぐらいは読むようにしていますし、絶えずいろいろな情報を取りに行ったり、アンテナを立てたり、人の話を聞いたりすることは、大学院を卒業してもいい形で続けています。