お知らせ News

◇NECグリーンロケッツ東葛戦マッチレポート

試合後の円陣で勝利を喜ぶ吉廣ヘッドコーチ

 清水建設江東ブルーシャークスは2月28日、夢の島競技場(東京都江東区)で行われたNTTジャパンラグビー リーグワン2025-26 ディビジョン2第7節で、吉廣ヘッドコーチが現役時代に所属したNECグリーンロケッツ東葛と対戦。22―14で競り勝ち、公式戦では同クラブから初勝利を収めた。チームの連敗を「2」で止め、前半を折り返した時点で昨季の勝利数に並ぶ5勝目を挙げた。勝点22で3位をキープ。次節は3月14日、夢の島競技場で豊田自動織機シャトルズ愛知と対戦する。

選手と握手する吉廣ヘッドコーチ

 吉廣ヘッドコーチの透き通った眼差しがフィールドの向こう側の空を映し出していた。あれだけこだわっていた古巣からの初勝利。だが、その心中は自分でも意外なほど静かだった。「もっとできたかもしれないな」。ヘッドコーチとして、自分の純度が高まれば高まるほどNECへの感情は、純粋な勝負への執着へと昇華されていった。席を立ち、コーチ陣と握手を交わしてピッチへと降りる。戦い終えた選手たちをハイタッチで迎えると、不意に声がかかった。「ついにやりましたね」。シンプルなその一言が胸に響いた。この試合に対する特別な思いについて、吉廣は「個人的な感情」と語ることを控えてきた。しかし、ともに時間を重ねてきた選手たちはその背景を理解していた。「みんないい人ですよね」。心と時間を尽くしてきた結果、チームは驚くほどのスピードで強くなった。そして、吉廣にはこの場所で仲間ができた。

 3年前の6月、ブルーシャークスのヘッドコーチの打診を受けた。指導者の経験がない自分に対する突然の依頼だった。自信なんかなかった。その上、会社員としてフルタイムで働きながらプレーする選手たちが大半のチーム。強くなるには、どう考えても練習時間が足りないと思った。吉廣自身、選手時代はNECでラグビーに多くの時間を捧げてきた。1日3部の練習や過酷な合宿をこなし、準備に準備を重ねた末に勝てない悔しさも味わってきた。だからこそ、限られた時間でプロと渡り合う難しさは痛いほど分かっていた。どんな名将でも躊躇する条件だった。それでも「逃げたくない」という内なる声に従おうと思った。自分の可能性を自分自身で否定する道だけは選びたくなかった。

 吉廣のマインドを徐々に変えていったのは、選手たちの人間性だった。皆が仕事を終えてから練習に駆けつけ、限られた時間の中で自分の役割を全うする。誰かに強制されているわけではない。そうしてグラウンドに立ち続ける姿勢は「教えられるものじゃない」と吉廣は言う。自分が現役時代に経験してきた「ラグビー中心の生活」とは別の厳しさ。そこに触れ、自然と彼らをリスペクトするようになった。「彼らの努力の成果を、最大にしてあげたい」。それが自分の役割だと定めた。

激しく競り合う李。この日に25歳の誕生日を迎えた

 そのために、伝え方も変えた。以前は自分が現役だった時の経験から与えられる情報は多い方がいいと考えていた。だが、限られた時間の中でも、選手たちは全ての情報を何とか理解しようと真剣に向き合う。その実直さを知ったからこそ、情報を増やすのではなく、整理して絞り、迷わせないことの方が大切だと考えるようになった。吉廣は現在のブルーシャークスについて「戦術理解度はリーグワン全体で見てもトップレベルにある」と自負する。共有された設計図を、どれだけ正確に体現できるか。その精度こそが、今のブルーシャークスの背骨となっている。

 結果だけを求めるなら、選手を入れ替えることが最も早い手段だと言われることもある。しかし、吉廣はその道を選ばなかった。現役時代、NECでともに戦った仲間を「家族のような存在だった」と振り返る。現役生活の最後、かつての古巣で、家族同然の仲間たちがチームの変革の中で翻弄される姿を見てきた苦い記憶がある。それはチームとは何か、強さとは何かを問い直す出来事でもあった。人を入れ替えれば強くなるのか。本当にそれがチームなのか。その問いは、指導者となった今も、胸の奥に残り続けている。その問いの答えとして、吉廣は就任以来、一人の戦力外も出していない。彼らが持つ資質を、どう競技力に結びつけるか。遠回りに見えるその「設計」こそが、このチームにふさわしく、自分がこだわるべき強化の形だと信じてきた。

 その設計を担うのは、自分しかいない。吉廣は言う。「自分が一番準備しないと、ここでハードワークしている選手たちについてきてもらえないと思っている」。ブルーシャークスでプレーしてきた実績があるわけではない。だからこそ、言葉で引っ張るのではなく、準備で示すしかなかった。本番でできないことを何より嫌った現役時代そのままに、今は選手のために、誰よりもラグビーと向き合う。その覚悟を背中で示すことだけが、信頼への唯一の道だった。前節の豊田自動織機シャトルズ愛知戦の大敗は、その責任の重さをあらためて突きつけた。「まだやれることがある」。映像を見返しながら想定を重ね、気づけば前半7分まで進めるのに膨大な時間を費やしていた。その裏には、一切の甘えを許さない決意があった。

 この試合の直前には、千葉・柏市へと向かい散髪に臨んだ。髪を切って戦ったホームゲームは勝つ。自分の中でのジンクスを完遂するため、近場で済ませるのではなく、わざわざ柏市まで足を運んだ。「そこも妥協したくなかった」。験担ぎのきっかけになった試合前と同じ場所、かつて暮らしていた街の美容院だった。もう準備はできている。そう思ってこの時間を作ったはずだった。だが、吉廣は移動しながら仕事ができるように自家用車ではなく電車を選んだ。揺れる車内で仕事に没頭する。「できることは全部やる」。彼の時間の使い方の隅々にそのこだわりが表れていた。

試合前のウォーミングアップでバーンズと話す吉廣ヘッドコーチ

 積み重ねた時間が結実したのは、14―7で迎えた前半36分。自陣ハーフウェーライン手前で得たペナルティ。通常ならタッチに蹴り出す場面だが、試合前の練習で風を読み切っていた吉廣は、SOバーンズに伝えていた。「狙える距離はペナルティーゴールも狙おう。外れても敵陣の22mラインから始まるなら、またアタックの機会を作れる」。強風の風上なら仮にキックが外れても相手のクリアは押し戻される。結果として敵陣深くから再び攻撃を組み立てられる。リスクとリターンを計算した上での、確信に満ちた共有。バーンズが放ったキックは、50メートルを超えてHポールの間を射抜いた。準備の中で描いた設計図が、現実のプレーとして完全に重なった瞬間だった。

 その姿勢は、敵将の目にも焼き付いていた。NECのクーパー・ヘッドコーチは「吉廣は賢くて、丁寧に準備をする選手だった。当時の彼と同じように、しっかりとした準備をしてきたことがブルーシャークスの勝利につながったと思います」と目を細めながら試合を振り返った。吉廣とは2012年からの2シーズン、ヘッドコーチと選手という立場でともに戦った間柄だった。だからこそ、試合を通じてより伝わるものがあった。吉廣は「NECにとっても何かを変えるきっかけになれば」と語る。倒すことだけが目的ではない。同じ時間を過ごした場所が、また前に進んでいく。そのきっかけの一つになれたのなら。来季、NECグリーンロケッツ東葛は譲渡され、その名はリーグから消えることが決まっている。その勝利には、形を変えていく古巣に対する祈りにも似た願いが込められていた。

NECグリーンロケッツ東葛の選手と健闘を称え合う吉廣ヘッドコーチ

 試合後、リーグワン公式の記者会見の場に吉廣の姿があった。従来のブルーシャークスは監督とゲームキャプテンがその席に座ってきた。しかしこの日は、仁木監督の計らいで吉廣が登壇することになった。隣に座ったのは、吉廣を慕って今季NECから加入したネマニだった。その光景は、吉廣が自分の信念に基づいて行動してきた証だった。立場が変わっても、場所が変わっても、仲間への向き合い方も、準備に向かう姿勢も変わらない。その姿が人の記憶に残り、時間を越えてもう一度人を引き寄せる。同じ在り方を貫いてきたからこそ、かつての縁は途切れることなく、形を変えて再び結び直された。

 「このチームは、お金と時間に融通が利く環境でやってきたコーチでは、絶対強くならない。やりがいがあるし、自分じゃないとできないっていうところは、いくつか自負しています。そこにプライドを持ってやっています」。選手生活に終止符を打って、かつての居場所を飛び出してきた。持っていたのは、強い信念だけだった。後悔したくないから、がむしゃらに働いてきた。違う形で全力で生きている人たちに出会えた。ともに時間を過ごして、一緒に強くなれた。自分の新しい役割に誇りを持てた。ようやく乗り越えた今、吉廣の手には大切なものがあふれていた。


◇吉廣広征ヘッドコーチ、マリティノ・ネマニ選手会見

ネマニの肩を揉む吉廣ヘッドコーチ(左)

質問者:本日の試合の総括をお願いします。

吉廣HC:まずはこの試合に関わっていただいた全ての皆様に感謝を申し上げたいと思います。個人的には古巣ということで、もちろん気合いは入りましたが、自分たちの目標を達成するために、この連敗をどうしても止めなければいけないというのが一番のプレッシャーでした。まずは個人的なところを抜きにして、チームとしてどうやって勝つかというところにフォーカスして臨みました。

ネマニ選手:もちろん古巣との対戦ということで複雑な気持ちもありました。NEC(グリーンロケッツ東葛)のおかげで日本に来られ、日本でプレーできている部分もあります。だからこそ今日は、勝ってブルーシャークスに恩返しをし、歴史を作ることが一番の目標でした。正しいゲームプランで戦い、それを遂行して勝利できたと思います。

質問者:吉廣ヘッドコーチ個人として、古巣戦に勝ったことへのお気持ちをお聞かせください。

吉廣HC:ブルーシャークスのヘッドコーチとして勝てたことは嬉しく思っていますが、もう少しできた部分や、選手たちの実力をもっと出せたのではないかという反省もあります。その中でしっかり勝ち切れたことは良かったと思います。

個人的には、まだ知っている後輩もプレーしていますし、試合後に彼らの表情を見ると複雑な思いもあります。ただ、NECにとっても何かを変えるきっかけになればいいと思いますし、決め切る力はまだ十分あるチームだと思います。また次に対戦するときは激しい試合になると思いますので、そこも楽しみにしています。

 攻め上がるネマニ

質問者:ネマニ選手、ブルーシャークスはどのようなチームですか。

ネマニ選手:ブルーシャークスは間違いなく成長していますし、自分がNECにいた時代から年々強くなっていると感じていました。NECでの時間は心の中で大きな存在ですが、今はブルーシャークスの一員として、できることを全てやって貢献したいという思いでいっぱいです。

質問者:移籍する際に、元NECのコーチ陣が多かったこともきっかけだったのでしょうか。

ネマニ選手:日本に初めて来た時に吉廣さんにとてもお世話になり、そこからずっと関係が続いていました。ブルーシャークスで吉廣さんがヘッドコーチをしていると知ったことが決め手になり、恩返しをしたいと思って移籍しました。

質問者:今日はライン際で非常に粘り強い守備が見られました。

吉廣HC:今年はディフェンスが成長していると感じている中、豊田自動織機(シャトルズ愛知)に60点以上取られた試合があり、何かを変えなければならないと考えました(※注1)。そこでディフェンスリーダーであるティノ(ネマニ)を中心に、ライン際の守備など細かい部分を修正してきました。今日は風がありましたが、ボールを動かせる中でしっかり守り切れたことは良かったと思います。まだ完璧ではありませんが、次に再戦するときにどうなるか楽しみですし、選手たちもそう感じていると思います。今日はNECに勝ったこと以上に、次につながる試合だったと思います。

※注1:2月14日、ブルーシャークスは12対66で豊田自動織機シャトルズ愛知に敗れた。

 前半8分、西端がトライを決める

質問者:これまでの試合では風下スタートが多かったと思います。今回は風上を選択しましたが、その理由は何でしょうか。

吉廣HC:相手のメンバーを見て、前半からプレッシャーをかけてくると感じました。ディフェンスの部分も含め、自分たちが変えてきたことを最初から自信を持ってプレーしてほしかった。大敗の後でもあり、前半から自分たちのテンポでラグビーをするためにその選択をしました。

質問者:野村三四郎選手を怪我の中でも前半から起用した理由を教えてください。

吉廣HC:無理をさせることは考えていませんでした。もちろんプレーしてほしい気持ちはありましたが、まだ若い選手で将来日本代表になれると本気で思っていますし、そうしなきゃいけないというコーチ陣の責任もあります。その中で本人に対し、将来を考えた上で冷静に話そうと言ったところ「絶対にやります」と。メディカルと相談し、スクラムの確認もし、ギリギリまで判断を待ちましたが、最終的に本人が行けると言い、メディカルも問題ないと判断したため起用しました。

質問者:その中でプレーヤー・オブ・ザ・マッチを獲得する素晴らしい活躍でした。

吉廣HC:厳しい練習環境で鍛えられてきた選手ですし、人間性も含め責任感が強いです。バイスキャプテンとしての自覚も増し、言葉にも重みが出てきました。本当に背中で示すタイプの選手です。言ったり見たりするのは簡単ですが、あの状態でスクラムを組める選手は日本中探してもいないかもしれません。本当によくやってくれています。

 スクラムに臨む野村

質問者:前半、ペナルティが重なり苦しい時間帯がありましたが、どのようにしてチームを立て直しましたか。

ネマニ選手:確かにペナルティが多く、自分たちでプレッシャーをかけてしまいました。ただ我々のテーマは忍耐強く戦い、自分たちのアタックとディフェンスを信じることでしたし、それはよくできたと思います。全体としては試合をコントロールできていたと思いますが、最後の5分は少し崩れてしまいました。

質問者:次の試合は、前節苦戦した織機戦です。どのように準備しますか。

吉廣HC:明確な修正点が2つありますので、次の2週間でそこを重点的に取り組み、選手たちが自信を取り戻せるようにしたいです。タフな試合が続きますが、ディビジョン2の中で試合に出ている人数が一番多いのはブルーシャークスです。誰が出ても同じように戦っていけると思います。

ネマニ選手:日本のラグビーはレベルが上がっていて、どのチームが勝つか分からない状況です。だからこそ一試合ずつに集中することが大事だと思います。次は織機戦ですが、ホームで戦えるのでそこを生かしたいです。

質問者:前回の織機戦には出場していませんでしたが、より楽しみですか。

ネマニ選手:とても楽しみです。リベンジの時ですね。


◇吉廣ヘッドコーチ インタビュー 

 試合前のウォーミングアップで笑顔を見せる吉廣ヘッドコーチ

質問者:ブルーシャークス、勝ちました。おめでとうございます。

吉廣HC:もちろん去年も勝とうと思ってやっていましたが、冷静に考えると、今のブルーシャークスは成長のスピードが早いと思っています。(成長のために)1年で15人ほど入れ替えるというような方法もありますが、私は就任してから一度も戦力外通告をしていません。今いる選手たちを大切にしながら、どう強くなるかを考えてきました。

質問者:それで結果を出すのは本当に難しいことだと思いますが、大きな要因は何でしょう。

吉廣HC:今いる選手たちがこれまで以上にマインドセットを変えてくれたからです。新しく入ってきてくれた選手もいますが、ずっと在籍している選手たちが成長してくれていることが本当に嬉しいです。

質問者:NECのクーパーHCに吉廣HCについて聞いてみると、「着こなしがスマートだった」と。

吉廣HC:(笑)

質問者:それと「準備をちゃんとする選手だった」と仰っていました。吉廣さんにとって準備することはどのような意味を持つのでしょうか。

吉廣HC:なんていうんですかね。嫌なんですよ、その時にできないというのが。本番の不安をなくすためにできるだけの準備をする。それと今の立場としては、自分が一番準備しないと、ここでハードワークしてる選手たちについてきてもらえないと思ってるんで。

質問者:色んな意味で大切なことなんですね。

吉廣HC:僕はブルーシャークスでプレーしてたわけじゃないし、どういうプレーヤーかという尊敬をもらってるわけじゃないです。認められるには同じようにちゃんと努力してないと、本当の意味で信頼関係はできないと思ってます。だからこそ何よりも今このチームのためにコミットして仕事して準備してるというのを見せなきゃいけない、そういう責任があると思ってます。

 攻め上がるトゥイトゥポウ

質問者:試合後にチームのみんなが吉廣HCに祝福の声をかけていました。吉廣HCのそういった姿勢が伝わっていたということだと思います。

吉廣HC:ありがたいです。試合に出てない選手たちもそういうことを言ってくれたんで、本当にみんないい人だなと。

質問者:試合終了の瞬間、喜ぶ姿は見せませんでしたね。

吉廣HC:めっちゃ嬉しかったですけど、もっとできるっていう方が先に来ました。去年、近鉄(花園近鉄ライナーズ)に勝った時は、「とにかく嬉しい、やった、興奮、泣いちゃう」みたいな感じだったんですけど。この間の近鉄戦(※注1)もそうですし、あの試合ももしあのまま勝ってたとしても、「もっとできた」って思ってたのかなと。選手も含め、ちゃんとそういうマインドになってきたんじゃないかなと思います。

※注1:2月7日の花園近鉄ライナーズ戦。試合終了間際に逆転トライを許し、14―16で惜敗した。

質問者:多くの選手がブルーシャークスが強くなったことを実感しています。

吉廣HC:データも見ながら客観的に分析して、少しずつ前進している実感があります。以前のことを冷静に考えると、NECとの差はすごくありました。練習試合の後半だけでも60点差ぐらい出てましたから。そこから3年ほどで公式戦で勝利した。みんな本当にすごいです。

 パスを出す金築

質問者:ブルーシャークスに来た当初は遠いと感じていたディビジョン1も、今は近くなっていると仰っています。どのようなプロセスを経てここまできたのでしょうか。

吉廣HC:最初は「死ぬほど練習して、これで負けたら仕方ない」と思えるくらいやる(のが勝つためには必要)、という考え方でした。NECで選手をやっていた時にはそう思っていたし、実際にやってきました。それでも勝てない経験をしてきました。でも、このチームではそれはできない。そこで、戦術理解を深め、このチームでしかできないことをやる。そして先を見過ぎずに、1年、1か月、1日できることを最大限やるという積み重ねを続けてきました。それが少しずつ機能してきていますが、それは1年単位ではなく、少し長いスパンで任せてもらっているおかげでもあります。

質問者:目標を達成するために、これからどのような課題があると感じていますか。

吉廣HC:ディビジョン2で優勝するより入替戦で勝つ方がはるかに難しいし、ディビジョン1で戦うのは本当に大変です。その先にはまだ大きな壁がありますし、周囲が言うほど簡単ではありません。それでも、チームとしてもっと強くなれる余地はまだまだあると思っています。

質問者:チームが成長しているという点については、選手たちの人間性など資質の比重というのも大きいですか?

吉廣HC:人間性は大事ですよね。リーグワンの前からいる人たちにとっては激動だったと思うんですよ。最初に話した通り、15人とかが入れ替わった後で中身が強くなっても分裂してるチームもいっぱい見てきたんで。ステージが変わってもそこでマックスを出してくれるっていうのは、その人の性格とか人間性がないと無理です。仕事が大変、時間がない中で22時になっても練習に来るとか、それはこっちから教えられるものじゃない。そういう面の資質はめちゃくちゃ大事だと思います。

 タックルする髙井

質問者:外国人選手に対しても、人間性という点をかなり重視していますね。

吉廣HC:私がヘッドコーチになってからはそういう点を面接で見ています。プレーや成績、キャリアではもっと良い選手がいたかもしれないですけど、周囲の人から聞いた人間性を重視してます。チームにコミットする、そういう資質はこのチームでは特に大事ですし、そう言うからには自分もちゃんと背中を見せる、その責任はすごくあるなと思ってます。

質問者:吉廣HCの指示が明確でわかりやすくなってきているという話を聞きました。どういう点を意識されていますか?

吉廣HC:最初は自分が分析したりチームのことを一番見ているという自負があったので、とりあえずみんなに情報を与えて、その中のどれかが誰かの役に立てばいいなって思ってたんです。僕はすごく準備するタイプの人間なので、選手時代もどれを聞き入れてどれを聞き流すかはこっちで判断するため、情報は多い方がよかったんです。
でもブルーシャークスのみんなはギリギリの中で本当にちゃんと全部やるっていうタイプなので、知ってること全部言っちゃダメなんだなって思ったんです。

質問者:そこから変わったんですね。

吉廣HC:最初の頃はディフェンスもアタックも、フォワードもバックスも関与してたんですけど、それぞれの人たちに任せることにしたんですよ。その代わり、コーチ陣とめちゃくちゃ話すようにしました。その後はもう任せる。

権丈太郎コーチも宮本誉久コーチも同期なんですけど、やりやすいからじゃなくて、一番やりづらいから呼びました。ラグビーに関しては考えの違いとかですごい喧嘩しますが、言いたいことを言えるし、一番厳しくできる相手を選んだって感じですね。

 攻め上がる白子(右)とタリトゥイ

質問者:ヘッドコーチとして何を大切にされていますか。

吉廣HC:指導者によってその人の人生が変わるっていうことを自分でも経験してきたんで、その人の人生のプラスになると思ってもらえるかどうか。それがコーチとしてのポリシーなので、そのためにやる。チーム一人一人のしている努力の効果が最大限出るように、できることを全部やってあげたいです。

質問者:ヘッドコーチは楽しいですか。

吉廣HC:そうですね。最初は「やらないのが逃げ」って思ってたんですけど、今は本当にやってよかったなと思います。このチームはすごく特殊なんで、細かい点まで見ないといけないし、できることなんて限られてる。ヘッドコーチ業というより、ブルーシャークスのヘッドコーチにやりがいを感じているし、自分じゃないとできないっていくつかの点で自負しているところはあるし、そこはちゃんとプライドを持ってやっています。

質問者:次節は前節で点差を離された豊田自動織機シャトルズ愛知と対戦です。

吉廣HC:織機戦を経て、自分たちがやってきたことをもう一回やればいいという手応えと、ディフェンスを直すきっかけをもらいました。ラグビーとすごく向き合ってもう一回考えましたし、コーチ陣とも今までのプロセスや効果についてなど、結構厳しくお互い言い合ったり。もちろんすぐ強くなることはないんですけど、最大の準備をして、今度どうなるかっていうのは非常に楽しみですし、真価が問われるんじゃないかなと思ってます。

コーチ陣と握手で勝利を喜ぶ吉廣ヘッドコーチ