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◇日本製鉄釜石シーウェイブス戦マッチレポート

前半6分、長谷が先制トライを決める

 清水建設江東ブルーシャークスは12月13日、夢の島競技場(東京都江東区)で日本製鉄釜石シーウェイブスとのNTTリーグワン ディビジョン2開幕戦に臨み、28―17で勝利を収めた。夢の島競技場での釜石戦では、これが記念すべき初勝利。今季初戦を白星で飾ったブルーシャークスは、4トライを奪う攻撃力と、要所を締める粘り強いディフェンスを発揮し、貴重な勝ち点「4」を手にした。次節は12月20日、東平尾公園博多の森陸上競技場(福岡県福岡市)に舞台を移し、九州電力キューデンヴォルテクスと対戦する。

 思いを同じにする仲間を信じた。そして、逆境に屈せずこの場所に帰ってきた自分自身を信じた。0ー0の前半6分。長谷はフィールド中央を切り裂くように前へ出た西端を追い、全力で走った。「玄汰!」相手選手のタックルに捕まりかけた西端に向かって叫ぶ。22メートルライン付近でオフロードのパスを受け、加速。追い縋るディフェンダーを振り切り、左手で先制トライをねじ込んだ。

 脳脊髄液漏出症による長期離脱で2年ぶりに公式戦に復帰した背番号7の一撃。フィールドの仲間が一斉に駆け寄って祝福した。ベンチは総立ちで叫んだ。2000人を超えるファンが歓声を挙げた。彼の苦しんできた時間を知る誰もが、その一歩を同じように喜んでいた。仁木監督は「ラグビーの神様がいるのであれば、愛していただいた結果かなと思います。この2年間、本当に苦しかったと思いますし、真摯に怪我とチームに向き合ってきた。その積み重ねがあのトライにつながったと思います」と振り返った。この一体感こそが、今シーズンのブルーシャークスの始まりを告げる合図だった。チームはその後も粘り強いディフェンスと強烈なスクラムで逆転を許さず、開幕戦を制した。

前半6分、先制トライの長谷と抱き合って喜ぶ西端

 この勝利のすべては、あの一言から始まった。約半年前の6月。昨季の最終戦となった狭山セコムラガッツとのD2/D3入れ替え戦後の納会で、当時キャプテンだった白子は、関係者やスポンサーを前に宣言した。「私たちは、ディビジョン1を目指していきます」。全ての日本人選手が会社員としてフルタイムで働きながらプレーしているブルーシャークスにとって、それは決して軽く口にできる目標ではない。白子は一呼吸置いて、チームメートに視線を向けた。「いいかな、みんな?」。誰ひとり、首を横に振る者はいなかった。ぼんやりと思い描いていた夢が、確かな輪郭を持つ目標へと変わった。

 その翌日、野村、李、安達の3選手がクラブハウスでウエートトレーニングを行い、休むことなく再スタートを切った。「昨シーズンを通してフィジカルの面で足りないと感じたので、すぐに始めたかった」と安達は言う。その日の鍛錬だけで、何かが変わるわけではない。だが、迷わず次への一歩を踏み出したこと自体が、彼らの強い意思を物語っていた。意思を伴った時間が集中力を生み、トレーニングの質を高める。その積み重ねが、取り組みの効果を確かなものにしていく。何を優先し、どこに時間を使うのか。日々の選択が変わる。その姿勢は個々の行動にとどまらず、やがて文化としてチーム全体へと浸透した。

ゴール前の守備の際に真剣な表情を見せる李

 覚悟を新たにしたのは、吉廣ヘッドコーチも同じだった。限られた練習時間の中でチームをどう強くするのか。吉廣は時間を惜しまず、世界中の試合映像を繰り返し見つめてきた。欧州やニュージーランドのチームを中心に、1試合の80分を止め、巻き戻し、再生する。そのたびに気づきを書き留め、A4ノートにして200枚分に及ぶメモを積み重ねていった。「80分の中に必ず一つはヒントがある」。膨大な映像と向き合う中で、吉廣の考えはより明確になっていった。理想とする戦術を遂行するためにはやはり、まず揺るがない土台が必要だという結論だった。

 今季、ブルーシャークスは例年よりも戦術練習の開始を約1か月半遅らせ、フィジカル強化に時間を割いた。ただでさえ少ない練習時間を戦術に使わない判断は、大きなリスクを伴う。それでも吉廣は、その選択を迷わず下した。積み重ねてきた分析と経験があったからこそ、この判断は賭けではなく、信念に基づく決断だった。その成果は、プレシーズンマッチで表れた。ディビジョン1の三菱重工ダイナボアーズなどの強豪を相手にしても当たり負けしないフィジカルの土台ができているという手応えが、次に磨くべき戦術へ集中する余白を生んだ。

タックルする野村

 個々の思いが線になって繋がり、ブルーシャークスは「チーム」になった。そのことをはっきりと感じさせる場面があった。この試合の2日前の練習。フォワード陣が締めの円陣を組む中で、髙橋が口を開いた。彼は1週間前のメンバー発表で、今回はピッチに立てないことが決まっていた。それでもこの日、試合に出る選手たちに向けて、こう伝えた。「序盤が大事だというのは、その通りだと思う。でも、釜石はリードされても気持ちを折らずにやってくるチーム。こっちが10点、20点リードしていても、そこから追いついてくる力を持っている。だから、ノーサイドになるまで気を抜いてはダメだ」。試合を具体的に思い描いていなければ出てこない言葉だった。彼は悔しい思いを抱えながら、試合に出るメンバーと同じ気持ちで1週間を過ごしていた。そして、その中で見えていた注意点を迷いなく伝えた。競技にもチームに対しても誠実な仲間がいる。そんな存在が、ピッチの外で同じ方向を向いてくれている。中途半端なプレーなど、誰一人として出来るはずがなかった。

守備でも献身的なプレーを見せた西端

  試合後、吉廣ヘッドコーチはロッカールームの外で次節・九州電力キューデンヴォルテクスの試合映像の編集を完了させるためにノートPCに向かっていた。勝利の余韻に浸る間もない慌ただしい毎日。それでも、その横顔はどこか楽しそうにも見えた。以前、吉廣はこう話していた。「会社員をフルタイムでこなしながら戦っているチームがディビジョン1に行くことは、ラグビー界にとって意義のあることだと思います」。まだ1勝。目標は未だ彼方にある。ほとんどがプロ選手のディビジョン2の舞台に、簡単な相手などいない。それでも彼ら全員が、挑むことに誇りを抱いている。常識を覆して全員で喜びを分かち合う。その瞬間に、フィールドに立つ意味を感じている。

重責の中でチームを勝利に導いた吉廣ヘッドコーチ

 

 

◇仁木監督、安達航洋キャプテン会見

引き揚げてくる選手たちを拍手で迎える仁木監督

質問者:本日の総括をお願いいたします。

仁木監督:まず初めに、本日の開催にあたり、協会関係者並びに多くの皆様にご尽力いただき、無事に開幕戦を迎えられたことに心から感謝しています。ありがとうございました。
釜石(日本製鉄釜石シーウェイブス)さんとは夢の島で過去2回対戦し、いずれも負けていました。夢の島で初めて勝てたことは素直に嬉しいですし、それ以上に、選手たちがしっかりハードワークし、成長した姿を見せてくれたことが何より嬉しかったです。

安達キャプテン:まず初めに関係者の皆様、本日はこのような素晴らしい会場を用意していただき、ありがとうございました。開幕戦ということで、緊張感のある試合になることは分かっていました。規律の部分で苦しい時間帯もありましたが、最後にトライを取られず、粘り切れたことが今日の勝因だと思います。

ラインアウトでボールをキャッチする安達

質問者:プレシーズンマッチでは直前に同じ相手と対戦しましたが、そこから修正した点や、試合までに取り組んできたことについてお聞かせください。

仁木監督:修正点の細かい部分はグラウンドを任せている吉廣ヘッドコーチに聞いていただいた方が良いかと思うのですが、私自身は、開幕戦は独特な雰囲気もあるのでプレシーズンとは全く違うということを選手たちに伝え続けてきました。
我々はディビジョン3からスタートし、昇格と降格を経験しながら、今年初めて2年連続でディビジョン2を戦っています。一方、釜石さんはディビジョン2に長く在籍し続けているチームです。4年間このカテゴリーで戦ってきたプライドや、フィジカルの積み重ねは相手の方が上だと話しました。プレシーズンマッチで勝ったけれども、相手の方が格上であり、その上で気持ちの部分やマインドセットをしっかり整えようと、選手にも伝えてきました。

質問者:キャプテンに伺います。点差が縮まった場面もありましたが、その時ピッチではどんな声かけをしていましたか。

安達キャプテン:失点の多くは自分たちの規律の乱れからでした。なので、もう一度規律にフォーカスして、粘り強く守ろうということを常に話していました。

攻め上がる安達

質問者:監督に伺います。今日、最初の2トライに大きく関わった西端玄汰選手の評価を教えてください。

仁木監督:本来は野田(涼太)が先発予定でしたが、急遽緊急出場になりました。プレシーズンからパフォーマンスを大きく上げていて、どちらを使うか最後まで迷っていました。彼はとにかくひたむきで、努力を惜しまず、元気印の選手です。こういう場面に絡んでくるのは、持っている選手だなと感じました。
この緊張感の中で緊急出場し、大きな経験を積んだと思います。次節は九州電力(キューデンヴォルテクス)戦で、彼は福岡で育ったので、また強い気持ちで準備してくると思います。

前半6分、長谷のトライに繋がる突破を見せた西端

質問者:今日はメインスタンドが満員になるほど多くのファンが詰めかけました。その応援をどう感じましたか。

安達キャプテン:苦しい場面でもスタンドを見ると、一面が青で、シャークスの応援が本当によく聞こえました。きつい中でも大きな励みになりましたし、間違いなく自分たちの力になっていました。去年はホームでなかなか勝てなかったので、まずは初戦を夢の島で勝てたことにホッとしています。

質問者:キャプテンとしての初勝利です。今の率直な気持ちを聞かせてください。

安達キャプテン:今シーズンは、シャークスが過去一番強いと言われることも多く、練習の強度を見ても自信はあります。ただ、それを試合で出せるかどうかが強いチームとそうでないチームの違いだと思っています。今日は最後の最後でそれを出せたのは良かったですが、苦しい時に自分が先頭に立って引っ張る部分は、まだ改善できると思っています。次の試合に向けて、チームとしても個人としても成長していきたいです。

質問者:後半、自陣ゴール前でモールを2度止めた場面では、かなり声を出していましたね。

安達キャプテン:監督からもゴール前は粘り強く守れと言われていましたし、相手のモールが強みなのも分かっていました。だからこそ、ここを守れればチームに勢いが出ると思い、フォワードのプライドを持って守り切ろうと伝えました。

スクラムを組む立川

質問者:今日はスクラムも大きな武器になっていたと思います。良かった点はどこでしょうか。

安達キャプテン:常に同じプロセスでやろうとチームで共有していました。一回押せたからといって違う組み方をするとそれは自分たちのスクラムではなくなってしまうので、毎回同じプロセスを徹底できたことが良かったと思います。

質問者:キャプテン就任時、言葉で引っ張るタイプではないと話していました。約1か月経ちましたが、今はどう感じていますか。

安達キャプテン:まずは行動とプレーで引っ張りたい気持ちはありますが、チームがきつい時に誰も話さなくなる状況は避けたい。そういう時に全員を落ち着かせ、何をやるのかを明確にするのがキャプテンの役割だと思っています。それはシーズンを通して続けていきたいです。

質問者:今日の声かけは、まさにそのような感じでしたか。

安達キャプテン:そうですね。アタックならビリー(バーンズ)、ディフェンスならティノ(マリティノ・ネマニ)など、頼れるメンバーがいます。自分は、そうしたリーダーに注目を集め、チームを同じ方向に向かせることに集中したいと思っています。

攻め上がるバーンズ

質問者:監督に伺います。今日は予想通りかなりタフな試合になったと思います。最後までハードワークし続けた選手たちを見て、去年との違いを感じましたか。

仁木監督:対人のコンタクトでフィジカルを強化してきた成果が、タフさとして表れたと思います。前半も後半も、終盤の苦しい状況で守り切れたのは大きかったかなと。練習時間が限られる中で、スキルよりフィジカルを優先してきましたが、それが実を結んだと思います。ディフェンスラインの上がりも去年より明らかに良く、前で止められていました。ただ、ペナルティやミスなど課題もあるので、そこは修正していきたいです。

質問者:初出場や若い選手も多かったですが、戦術の浸透についてはどう感じましたか。

仁木監督:コミュニケーション量が去年、一昨年より圧倒的に増えています。誰かが話せば全員が顔を向けて聞いている。選手の意識が大きく変わったと感じています。それを引っ張ってくれている吉廣ヘッドコーチ、コーチ陣にも感謝しています。

攻め上がる尾﨑

質問者:長谷(銀次郎)選手が約2年ぶりに公式戦に復帰し、最初のトライを決めました。評価をお願いします。

仁木監督:できすぎですよね、ずるいなと思いました(笑)。ラグビーの神様がいるのであれば、愛していただいた結果かなと思います。この2年間、本当に苦しかったと思いますし、真摯に怪我とチームに向き合ってきた。その積み重ねがあのトライにつながったと思います。ようやく銀らしさが戻ってきたと感じています。これから体が更に戻ってくれば、7番を背負い続けられる選手になるし、そうなると他の選手にも刺激になるので、チームにとっても良いことだと思います。

質問者:復帰から1か月でスタメン起用となりましたが、決め手は何でしたか。

仁木監督:ひたむきにタックルに行き、自分の役割を理解して全うし続けてくれるところです。それに、怪我を乗り越えて、この1ヶ月、本当に楽しそうにラグビーをしていた。それがチームに良いエナジーを与えてくれました。

質問者:ありがとうございました。


◇長谷銀次朗選手一問一答(2年の長期離脱から公式戦復帰。前半6分に先制トライ)

後半の開始を待つ長谷

質問者:最高のスタートでしたね。

長谷選手:良かったです。

質問者:2年ぶりの公式戦になりました。トライも決めました。試合を振り返って、いかがでしたか?

長谷選手:今日は開幕戦だったので、変に何かをやろうとは考えず、一つ一つのタックルやキャリー、ブレイクダウンにこだわろうと思ってプレーしました。

質問者:トライの場面を振り返るといかがですか。

長谷選手:(西端)玄汰がゲインラインを切ってくれて、僕の声に反応してパスをつないでくれました。僕はまっすぐ走るだけでした。本当にチームみんなでつないで取れたトライだと思います。

前半6分、ゴールラインに向かって走る長谷

質問者:やっぱりラグビーの神様っているんだな、と思いました。ベンチもものすごく喜んでいましたね。

長谷選手:そうですね。そもそも今日はトライを取れるとは考えていなくて、ディフェンスで体を張ろうと決めてたんで。言う通り、神様が向いてくれたのかもしれないですね。

質問者:今日の試合はスクラムが本当に良かったですよね。

長谷選手:今シーズンずっとこだわってきたセットピースの成果だと思います。ラインアウトはミスもありましたが、スクラムはフォワード全員で遅くまで残って細かい部分レベルアップするために日々練習してきたんで、その積み重ねが試合に出たと思います。

ラインアウトの際に立川と話すバレイラウトカ

質問者:自信を持って自分たちの形を作り切れた感覚ですか。

長谷選手:そうですね。

質問者:タックル、めちゃくちゃ行ってましたね。

長谷選手:本当ですか。早く映像を見て、自分がどんなタックルをしていたのか確認したいです。

質問者:試合中の記憶はあまりないですか?

長谷選手:あんまり覚えていないです(笑)。

質問者:仁木監督が会見で「すごく楽しそうにラグビーをしていたし、それがチームにいいエナジーを与えてくれた」と話していました。復帰してからの1ヶ月間、どうでしたか。

長谷選手:6月頃の(監督、ヘッドコーチとの)面談では、正直もう復帰できないと思っていました。一度終わったラグビー人生が、もう一度始まった感覚です。復帰してから1か月で、もちろんしんどさもありますが、それ以上に楽しさのほうが何倍も大きいですね。

体を張ったプレーを見せるヘプテマ(左)とネマニ

質問者:じゃあ、もう怖いものはないですね。

長谷選手:この先の人生、怖いものはないですね。(笑)

質問者:次は12月20日、九州電力キューデンヴォルテクス戦です。

長谷選手:九電はブレイクダウンが本当に強いチームなので、そこで負けなければ結果はついてくると思います。

質問者:長谷選手の見せ場も多くなりそうですね。

長谷選手:自分の仕事を全うすることを一生懸命やりたいと思います。今シーズンも皆さん一緒に頑張りましょう。


◇石黒正高ヘッドトレーナー 一問一答(約2年に渡り、長谷選手の復帰を心身ともにサポート)

チームメートに送り出されてフィールドに向かう長谷

質問者:長谷(銀次朗)選手は約2年ぶりの試合となりました。アスリートにとっては、考えられないほど長いブランクだったと思いますが、今日の姿を見て、いかがでしたか。

石黒トレーナー:11月15日の(プレシーズンマッチの)ヤクルト戦で実戦としては一度復帰していたので、まずそこが一番感慨深かったです。正直、自分自身も本当に復帰できるとは思っていませんでした。今日開幕戦を無事に終えて、怪我なく戻ってきてくれたことがまず何より嬉しかったですね。最初にトライを取って、良いプレーもして、本当に嬉しかったですね。彼の復帰はトレーナー人生の中でも一番嬉しい出来事かもしれません。

質問者:約2年間、どのように長谷選手をサポートしたのでしょうか。

石黒トレーナー:彼の努力が本当にすごくて、僕らができることは限られていました。それにしても、2年間モチベーションを保ち続けたのは本当にすごいなと。彼はずっと「ラグビーが好きだ」と言っていましたし、だからこそ、できる限りサポートしたいと思っていました。本当によく復帰したと思います。

後半2分、トライを決める尾﨑

質問者:長谷選手からは、石黒さんが病院に付き添ってくれたという話も聞きました。

石黒トレーナー:症状がとても難しかったんです。骨折や肉離れのように経過が比較的読みやすい怪我とは違って、脳震盪や脊髄液漏出のようなケースは、医師とのやり取りも難しくなるんです。医師が現状を知る必要がある時も、本人の主観だけでなく周囲から見た客観的状態も含めて共有しないといけない。医師、本人、我々の三者が一体にならないと前に進めませんでした。

質問者:慎重にやらないといけないんですね。

石黒トレーナー:担当の医師の先生はコンタクトスポーツの脳神経を専門とされていて、とても忙しい方です。だからこそ、こちらが話をきちんと聞いてないと情報のやり取りが滞ってしまうのもあって、一緒に行っていました。

質問者:それを続けるのは、簡単なことではないですよね。

石黒トレーナー:このチームはメディカルトレーナーが4名いる体制なので、1人が抜けても現場が回るということがあり、チームに感謝しています。

タックルする金築

質問者:今日もあれだけ良いプレーをしてました。

石黒トレーナー:そうですね。長谷選手の存在は、他の選手にとっても希望になると思います。実際ヤクルト戦で復帰した時も、同じような境遇の選手が相手チームにいて。彼自身が、経験をもとに話を聞いてあげられる存在になったことも、とても大きいと思います。

質問者:この2年間長谷選手が難しい病気に向き合う中で、どのような点が印象的でしたか。

石黒トレーナー:何よりも、ラグビーが本当に好きだという気持ちが、最後まで揺らがなかったことです。復帰したいという思い以上に、チームやスポーツそのものに向き合う熱が常にありました。それがなければ、復帰は難しかったと思います。頭痛やめまいが続く中で、精神的にも肉体的にも相当辛かったはずです。

後半36分、トゥイトゥポウ(中央)のトライを喜ぶブルーシャークスの選手

質問者:それでも仕事終わりに練習場に来ていましたね。

石黒トレーナー:何ができるかわからない中で、チームを支え、自分のケアも続けていた。
彼の人柄が、本当に素晴らしいと思います。

質問者:本人が辛い時に寄り添ってサポートしてくれるのは本当に心強かったのではないかと思いますが、石黒さん自身も気持ちが揺れることはあったのでしょうか。

石黒トレーナー:ありました。正直、復帰は難しいかもしれないと思っていました。僕らができることが少なくて。一度はコンタクトまで戻れたものの、すぐに調子を崩してしまって。暗闇の中にいるような感覚でした。

質問者:そこから、どう変わったのでしょう。

石黒トレーナー:彼がずっと「眠れない」と言っていたんです。「眠れるようになれば、行ける気がする」と。そこで、じゃあまず睡眠にフォーカスしてみようと。練習に遅れてもいいからと言って、とにかく寝ることを最優先にしました。

質問者:それが転機になった?

石黒トレーナー:7月~8月頃、一度8時間眠れた日があって、そこから一気に好転しました。負荷を上げても悪化しない、コンタクトしても大きな変化がない、ということで、そこから少しずつラグビーに近づいていきました。時間経過の要因もあったのかもしれないですけど、眠れたというのが彼の中で1つスッキリする要因だったのかなと思います。本当によく復帰しました。すごいことだと思います。

開幕戦に勝利して笑顔を見せるブルーシャークスの選手

質問者:最後にお聞きします。石黒さんは、何のためにトレーナーをやっているんですか。

石黒トレーナー:もともとスポーツが大好きで、父が乗馬のオリンピック選手でした。自分は選手としての才能はプロになるようなレベルではなかったけど、スポーツの近くにいたいと思いました。高校からアメリカに行っていたのですが、アメリカの全ての高校にはアスレチックトレーナーというのが必ずいて、この仕事はすごく面白いなと思ったのがきっかけです。勝ち負けや、チームで感情を共有することが好きで、現場でトレーナーとしていること自体が、自分のやりたいことなんです。

質問者:今日はまさに、その喜びを共有できた一日でしたね。

石黒トレーナー:それが本当に好きで、楽しいんです。だから今やっと試合のシーズンが来て嬉しいです(笑)。体力が続く限り、続けたいですね。

質問者:ありがとうございました。今シーズンもよろしくお願いします。

石黒トレーナー:ありがとうございました。