◇狭山セコムラガッツ戦マッチレポート

清水建設江東ブルーシャークスは10月11日、清水建設荏田グラウンド(神奈川県横浜市)でJAPAN RUGBY LEAGUE ONE RISING(強化と実戦経験を積むための新シリーズ)の第2戦となる狭山セコムラガッツ戦に臨み、33-0で勝利した。前戦・日野レッドドルフィンズ戦で見えたセットプレーでの課題を修正し、スクラムとラインアウトを軸に試合を支配。後半にかけてはリザーブメンバーを含めた全員で無失点を守り切るなど、チームとしての成長を感じさせる一戦となった。

夜間照明に照らされた小雨が、試合後の歓喜に沸くブルーシャークスの選手たちに優しく降り注いでいた。これまで彼らの積み重ねてきた時間を見届けてきた荏田グラウンドの光が、この夜も変わらず彼らを照らしていた。「じゃあ、菅原いこうか!」吉廣ヘッドコーチの声が円陣の中に響いた。常に自らを磨き続けるプロップは、試合終了残り10分から出場し、最後のトライを生んだスクラムを最前線で支えた。チームメートから「影のプレーヤー・オブ・ザ・マッチ」に推され、照れくさそうに一歩前へ。「指名された選手の一言」を促されるも、おどけるように辞退する。その瞬間、輪の中から笑いと拍手が湧き起こった。小雨を弾くような明るい声が夜気に溶けていく。それは、互いの努力と成長を喜び合う、ブルーシャークスというチームの文化そのものだった。
このグラウンドで日々積み上げてきた信念は、一人ひとりの中に息づいていた。前半3分、ゴール前左サイドのラインアウトを起点にベイリーが先制トライ。同24分にはスクラムで押し込み、再びベイリーがトライを奪い主導権を握った。メンバーが次々と入れ替わっても、フォワード陣の強度と勢いは止まらない。相手陣営は思わず「うわ、強い」との驚きの声を漏らした。26-0の大量リードで迎えた後半37分には、ゴール前中央付近のスクラムから藤岡が右サイドのトゥイトゥポウへと繋ぎ、ダメ押しのトライ。昨季のディビジョン2・3入れ替え戦で苦戦した狭山セコムラガッツを相手に、完封勝利を収めた。

菅原は「試合を通してシャークスのスクラムのプロセスを守れて、自分たちのやろうとしていたことができた。去年はメンバーが変わると崩れることもあったけど、そうはならなかった。一貫性を持ってやれた試合だったと思います」と手応えを口にした。ディビジョン1(D1)を狙えるチームに変貌するために、個々が生まれ変わろうとしている。
他のチームに比べて練習時間の限られるブルーシャークスが、ディビジョン1を本気で目指すためには、個々が自分の強みを磨き、誰にも負けない「武器」を持つことが不可欠だ。限られた時間の中で全員がすべての能力を平均的に高めることはできない。だからこそ、自分にしかない武器を磨き上げ極めていくことが、チーム全体の力を底上げする最も効果的な方法となる。誰もが「突出した何か」を持てば、チームには多様な強みが生まれる。

菅原は今季を迎えるにあたって、「スクラムだけは誰にも負けない」と心に誓った。俊敏性で勝負するタイプではない。だが、プロップというポジションには、必ず自分が主役になれる「スクラム」がある。その一瞬にすべてを懸けるために、練習後もグラウンドに残り、足の位置や姿勢、体の角度まで細かく確認しながら、何度も何度も組み直した。筋肉の張り具合、芝の感触、相手との圧のかかり方。誰よりも丁寧に、誰よりも執念深くスクラムを突き詰めてきた。「なれるものなら、本当に日本一、世界一のプレーヤーになりたいですよ、気持ちはね。このくらいでいいかなと思うと、それより下にしか絶対いけないと思ってるんです。届くかどうかは置いといて。ラグビーは楽しいですよね」。笑いながらそう語る菅原の言葉には、職人のような覚悟と純粋な愛情が宿っている。ラグビーが好きだからこそ、もっと強くなりたい。長く続けたい。その思いが、彼のあくなき向上心を支えている。
この日、出場時間はわずか10分。それでも菅原は3度のスクラム全てで相手を圧倒した。数字には表れないその貢献を、仲間たちは誰よりも知っている。練習後、最後まで残って組み続けていた姿を見てきたからこそ、彼の活躍はチーム全員の喜びでもあった。円陣の中で「影のプレーヤー・オブ・ザ・マッチ」として名を呼ばれた瞬間、仲間たちが一斉に笑顔になったのは、努力が報われる瞬間を自分たちのことのように感じていたからだ。ブルーシャークスというチームを強くしているのは、こうした努力と、それを見て心を動かす仲間の存在だ。各自が自分にしかできない仕事を持ち寄り、互いを信じ合う。その積み重ねが確かな変化を生み、ブルーシャークスを新たなレベルへと押し上げている。

試合後、仁木監督は「思い一つでこんなに変わることができる。チームとして一つ上の段階に行けたと思います」と語った。小さな覚悟の積み重ねが、やがて大きな力になる。誰かの努力が仲間を奮い立たせ、チームはまた前へ進む。その連鎖が、ブルーシャークスの力を確かなものに育てていく。目指す場所は未だ遥か遠い。だが、小雨に光る荏田のグラウンドには、勝利の喜びとともに、次のステージへと向かう鼓動が静かに息づいていた。
◇菅原崇聖選手一問一答

質問者:本日の総括をお願いします。
菅原選手:とりあえず自分の役割はスクラムだったので、そこができて本当にほっとしています。
質問者:試合後の円陣で、チームメートから「影のプレーヤー・オブ・ザ・マッチ」だと言われていましたね。
菅原選手:ちょっとスクラムがうまくいったんで、いじってもらったんだと思います(笑)。自分をそんなふうに推してくれたのは(髙橋)広大ですけどね。何かをやり遂げたわけじゃないし、10分しか出てないけど、そう言ってもらえて嬉しかったです。今年の僕は「一球入魂」。いつもそうなんですけど、今年は特にそう思ってやっています。

質問者:スクラムについて、どのように悩まれていたのでしょうか?
菅原選手:まだしっくりきてないところがたくさんあって。今日のスクラムはうまくハマりましたけど、全部の試合で同じことができるかといったらできないと思います。めちゃくちゃ自分が良くなった感触があるわけじゃないし、まだまだ改善していかなければならないことがある。ただ、課題にしていた中でできたことがあって、試合の中でチームの武器になれた瞬間があったのは良かったです。
質問者:この試合でメンバーが変わっても強いスクラムを保って試合をコントロールできたのは、チームにとって大きかったですね。
菅原選手:もう仰る通りだと思います。試合を通してシャークスのスクラムのプロセスを守れて、自分たちのやろうとしていたことができた。去年はメンバーが変わると崩れることもあったけど、そうはならなかった。一貫性を持ってやれた試合だったと思います。

質問者:前戦・日野レッドドルフィンズ戦から、どのような部分が改善されたのでしょうか?
菅原選手:日野戦も良い部分はありましたけど、一貫性がなかった。そこが課題でした。同じ反則を2回取られるようなことをしてはいけない。セコム戦では、同じミスを2回しないよう意識しました。自分たちのプロセスを丁寧に、でも出力は落とさずにできたのが良かったです。丁寧にやろうとして力が抜ける、みたいなことは絶対にしちゃいけないんで。
質問者:仁木監督も「チームが一つ上のレベルに上がれた試合」と話していました。
菅原選手:課題にしていたことが遂行できた試合という意味では、本当に良かったと思います。やろうとしてできなければ、また同じ課題に戻ってしまう。でもこのセコム戦では、セットピースからフィジカルを全面に出していこうというフォワードのマインドセットを実際に体現できた。セットピースが試合を作るという部分で、チームが一段上がれた感覚はありました。

質問者:日野戦よりもセットプレーが安定して、バックスのプレーも変わったように見えました。フォワードのプレーがブルーシャークスのベースになっていますね。
菅原選手:そうですね。僕たちフロントローはいつだって「俺のスクラムでチームを前に出してやる」って気持ちでやってます。よく「僕らの一歩はバックスの10メートル」なんて言いますけど、ブルーシャークスのバックスには適当にボールを扱う選手はいません。だからこそ、フォワードはバックスがチャレンジしやすいボールを出したい。良い関係だと思います。
質問者:練習を見ていると、後輩やチームメートにアドバイスする場面が多いですよね。その意識はいつごろからですか?
菅原選手:ブルーシャークスに来た時からのような気がします。積み上げるための時間ってなかなか足りないじゃないですか。スクラムも、何時間も組んでいくうちに掴んでいくものだと思うんですけど、このチームでは現実的にその時間が取れないこともある。だから、自分が何かのきっかけを与えられたらチームのためになるのかなと思いながらやってます。

質問者:菅原さんは普段から丁寧に時間を積み重ねていますよね。
菅原選手:そうですね。プロップの良さって、絶対にやらなきゃいけないスクラムがあることなんですよ。試合中にスクラムがゼロで終わることは絶対にない。そこがありがたいです。他のポジションは、用意していたプレーができずに終わることもあるけど、プロップにはそれがない。それが嬉しいですね。
質問者:気持ちを保ち続けられる理由を教えてください。
菅原選手:わかんないです(笑)。「モチベーションを保つぞ!」って思いながら生きてるわけじゃないんですけど、自分はもっと上達できると思ってるんですよ。年を取ると「もう伸びないよ」とか言われますけど、「まだまだ」ってずっと思ってる。それが続けられている理由なんじゃないですかね。

質問者:どんな選手になりたいですか?
菅原選手:え、難しいな…。なれるもんなら、本当に日本一、世界一のプレーヤーになりたいですよ、気持ちはね。このくらいでいいかなと思うと、それより下にしか絶対いけないと思ってるんです。届くかどうかは置いといて。ラグビーは楽しいですよね。僕が始めた頃と今とでは全然違う。ルールも戦術も変わるけど、ラグビーの本質的な部分は変わらない。それがラグビーの良さだと思います。
質問者:そういう意味で、この試合は「ラグビーって楽しい」と感じられた試合の一つでしたか?
菅原選手:そうですね。結果とか関係なく、ラグビーは楽しいです。見るよりやる方が楽しい。痛そうってよく言われますけど、良いプレーができている時は怪我しないんですよ。不慮の事故は別として、良い姿勢で組めている時は相手に力を伝えられている。体がガチッと固まってる状態だから、そういう時は怪我しない。ただ、怪我で離脱して外から見ていると「こんなことしてたんだ」って冷静になる時もあります。自分でもよくやってるなと思います(笑)。

質問者:いつ、ラグビーが楽しいと感じますか?
菅原選手:今はもう、フォワードパック(スクラムを組む8人のフォワード全体)で勝った時が一番気持ちいいです。ヒリヒリするゲームで勝てた時とか、最高ですよね。何に楽しみを置くかは人それぞれで、それもラグビーの良さだと思います。ウイングが感じる楽しさと、僕が感じる楽しさはきっと噛み合わないけど(笑)。チームとしては勝つこと、それが共通ですね。
質問者:菅原さんにはフォワードのポジションが合っていたんでしょうね。
菅原選手:合ってました。プロップになって良かったと思ってます。