試合情報 Game info

◇島津Breakers戦マッチレポート

ラインアウトのボールをキャッチする安達

 清水建設江東ブルーシャークスは8月30日、清水建設荏田グラウンド(神奈川県横浜市)で島津Breakersとのプレシーズンマッチに臨み、73-21で勝利を収めた。今季、ディビジョン2(D2)でのリーグ戦で2位以内に入り、ディビジョン1(D1)との入替戦を目指すブルーシャークスにとって、この試合は新たなシーズンに向けた初の実戦。スコア以上に、チーム強化と企業交流の両面で大きな収穫を残す一日となった。

 オレンジ色に染まる夏の夕暮れの光が空を照らし、影を落とすグラウンドを柔らかく包んでいた。試合後の記念撮影。心地よい疲労感を表情に浮かべた選手たちがHポールの前に整列する。青のユニホームを着たブルーシャークスと、赤のユニホームに身を包んだ島津Breakers。前列には両社の経営陣が笑顔で顔をそろえていた。掛け声に合わせて全員が晴れやかな表情で拳を掲げる。普段は業務を通じて深いつながりを持つ両社が、この日はラグビーという同じフィールドで肩を並べた。その姿は、ビジネスの枠を超えて人と人がつながることの価値を確かに示していた。

試合後に記念撮影する両チームの選手と関係者

 ホイッスルが鳴れば、フィールドに広がったのは親善の名を超えた真剣勝負だった。序盤はブルーシャークスがペナルティを重ねて自陣に押し込まれ、モールから先制トライを許す苦しい立ち上がり。しかし、バックス陣の巧みな連携からトライを奪い返すと流れを引き寄せ、徐々にペースを掌握した。試合が進むにつれて鍛え上げてきたフィジカルでも優位に立ち、次々とスコアを重ねて突き放した。

タックルする松土

 吉廣ヘッドコーチは「練習で積み重ねてきたことを試合で実行する再現性を出せたのは昨季にはなかった手応え」と振り返る。就任から2年かけてチームの大枠を整え、今季は細かいスキルに重点を置いた練習を積み重ねてきた。スクラムやブレークダウンではリザーブを含め誰が出ても安定感を発揮した。そこで示されたのはディビジョン1との入替戦を見据えた「土台の確かさ」だった。攻撃のテンポは後半さらに加速し、最終的には73―21と大差をつけ、夏のトレーニング成果を示す形で勝利を収めた。

攻め上がる西端

 この試合には、単なる親善以上の意義があった。ゲームキャプテンを務めた田中利輝はブルーシャークスの母体となっている清水建設の営業総本部で島津製作所を担当。業務での縁をきっかけに今回の交流試合を企画し、実現に導いた中心人物だ。「普段はお客様として接する方とも、この日は選手同士として対等に戦えた。自然とラグビー界の先輩・後輩のように話せた」と語る田中の言葉には、競技を超えて人と人がつながる瞬間の特別さがにじむ。試合後には両チームの交流会も開かれ、清水建設の新村達也社長と島津製作所の山本靖則社長が同席。両社の経営トップが同じテーブルで約1時間にわたって言葉を交わし、会場は和やかな雰囲気に包まれた。真剣勝負という同じ体験を共にしたからこそ生まれた親近感や信頼。ラグビーが媒介となり、企業同士の絆が深まったことを示す象徴的な場面だった。

スタンドから試合を見つめる島津製作所の山本靖則社長

 今回の交流を通じて、負けられない理由がまた一つ増えた。島津Breakersの山口朝憲部長は「ブルーシャークスは我々の道標。仕事とラグビーを両立しながらこれほど高いレベルで戦っているチームは数少ない。こうした相手とプレーできることは大きな励みになる」と語る。ブルーシャークスは昨季のD2のリーグ戦で、前季までD1に所属していた花園近鉄ライナーズを破るなど、確かな成果を積み重ねてきた。仁木監督はかねてより「プロ選手が主体のチームを倒して、日本ラグビー界に風穴を開けたい」と語ってきたが、その目標はすでに現実のものとなりつつある。仕事と競技の両立という独自のスタイルでプロ集団に挑み、勝利を重ねてきた姿勢は、同じように働きながらラグビーを続ける他のチームにも影響を与えている。島津Breakersがブルーシャークスを「道標」と表現した背景には、そうした実績と信念がある。目標とされている自分たちには、どんな時でも前を向いて戦い抜く責務がある。ブルーシャークスはもはや、単なるチャレンジャーではない。その立場は同じような境遇の選手たちにとっても大きな励みとなっている。

島津Breakersの選手に拍手を送る清水建設の新村達也社長(右から5人目)ら

 「ウエイトトレーニングの数値も想定以上に伸びていますし、選手たちは本当に一生懸命取り組んでくれています。あとは、ここからどれだけ「走れる体」をつくれるか。9月はフィジカル的にもメンタル的にもタフな1カ月になると選手たちには伝えています」と吉廣ヘッドコーチは表情を引き締めた。責任を背負いながらも、選手たちは日々鍛錬を重ね、次なる高みを見据えて進んでいく。独自の道を貫く姿勢は、これからの戦いの中でさらに磨かれていくだろう。どこまで到達できるのか。ディビジョン1を見据えた旅路の先に浮かぶ景色は、きっとこれまでの延長線上にはない新しいものになる。

 

◇田中利輝選手インタビュー(ゲームキャプテンとしてチームを牽引。今回の親善試合を企画、運営)

前半を終えてベンチに引き揚げる田中

質問者:田中選手は清水建設の営業総本部に所属され、今回の対戦相手である島津製作所をご担当されていると伺いました。そのご縁もあって、この親善試合の企画を任されたそうですが、開催に至るまでの経緯を教えてください。

田中利輝選手:もともとのきっかけからお話しします。昨年、弊社が島津製作所さんから大規模な試験装置を導入しました。非常に大きな装置で、島津さんにとってもインパクトの大きい案件だったと思います。そのこともあり、島津製作所の山本靖則社長が「ぜひ装置を実際に見たい」と仰って、2024年7月末に東京都江東区潮見にある清水建設のイノベーション拠点「ノヴァーレ(研究開発や交流の拠点)」を訪問されました。その際に、清水建設の井上和幸会長に対して「島津製作所には島津Breakersというラグビーチームがあります。ぜひ交流試合をしませんか?」とご提案をいただいたんです。これが今回の親善試合の最初のきっかけになりました。その後の具体的な調整は、島津Breakersの山口(朝憲)部長と私とで進めました。山口さんは私の母校である京都産業大学の先輩でもあり、そのご縁もあって話がとてもスムーズに進みました。こうしてビジネス上のつながりとラグビーを通じた人の縁が重なり、この交流試合が実現したんです。

質問者:普段の営業や日常業務における交流と比べ、ラグビーという真剣勝負を通じての交流の違いはありましたか? 

田中選手:普段仕事でお付き合いする方も試合に出場されていたのですが、そういう方たちともフィールドでは対等というか。普段はお客様ではあるのですが、ラグビーを通じて選手同士として交流できたのは新鮮で面白かったです。お互いに言葉遣いも自然とフランクになりますし、仕事上の立場を超えて「ラグビー界の先輩、後輩」のように対話しやすくなります。 ブルーシャークスならではの強みを感じました。また、試合後の交流会で(島津製作所の)山本社長にご挨拶をさせていただきました。大変光栄でしたし、本当に有意義な1日になりました。

ディフェンスする田中

質問者:試合や交流会の中で印象に残った場面やかけられた言葉はありますか?

田中選手:島津Breakersの山口部長は、以前から「仕事とラグビーを両立しながらより高いレベルを目指したい」と繰り返しおっしゃっていて、今回の交流会の挨拶でも「ブルーシャークスは我々の道標であり、そうしたチームと戦えることは勇気をもらえる」というような趣旨のことを話してくださいました。リーグワンではプロ主体のチームが増えている一方で、ブルーシャークスの理念に共感してくださるチームがあることを、とても嬉しく思いました。また、たくさんの方から「お疲れさま」「無事に開催できてよかったね」といった温かい言葉をかけていただき、約1年かけて企画してきたことが形になって本当に良かったと思いました。

質問者:この親善試合自体が企業同士の新しい交流の形だと感じました。今後もこうした交流をどのように展開していきたいですか?

田中選手:ブルーシャークスは、私が所属している営業総本部のもとにあります。だからこそ「本業につながる活動をしてほしい」という期待も大きいんです。ブルーシャークスは2022年に社団法人化しましたが、その中で積み重ねてきた経験やノウハウを会社に返し、さらに企業同士のつながりを広げていければと思っています。今回のように、社長同士がラグビーをきっかけに顔を合わせることができるのはとても特別なことだと思います。普段の会食やゴルフとは違う、真剣勝負だからこそ生まれる交流の形がある。そこにブルーシャークスらしさ、ラグビーならではの強みがあると感じます。もちろん、頻繁にできるものではありませんが、お客様からご要望があれば年に一度でも実現していきたいです。そうすることで「ブルーシャークスは会社にもしっかり貢献している」と示せるし、選手にとっても普段戦わない相手と試合できるのは貴重な経験になります。そういう意味でも、今回のような交流の場はぜひ続けていけたらと思います。

ウォーミングアップでスクラムを組む田中

質問者:チームとして、個人として、試合で得られた収穫や課題を教えてください。まずはフィジカル面はいかがでしたか?

田中選手:この1~2カ月はチーム全体でウエイトトレーニングを強化してきました。その効果が試合でも少しずつ出てきていると思います。例えばリーグワンで上位のチームのデータをストレングスコーチから示され、「他のチームはこれくらいの重量を挙げている」という具体的な数字を共有しました。自分たちの現状と足りない部分を明確にし、そこを埋めることを課題として取り組み始めています。

質問者:昨季終了後から今日までの間、トレーニングにおいて個人的に具体的な変化はありましたか?

田中選手:ベンチプレスやスクワット、背筋を鍛えるローイング系などの主要種目で、昨年より平均して10キロほど数値が上がりました。確実に力をつけてきていると感じます。

質問者:チームとして戦術面についてはいかがですか?

田中選手:前半は少し落ち着かない場面もありましたが、後半は自分たちが練習してきたアタックの形を出すことができました。この2カ月間、限られた時間の中で反復練習を続けてきた成果だと思います。次の課題は、それを前半から出せるようにすることです。試合全体を通して自分たちのリズムを作れるよう、さらに取り組んでいきたいです。

◇吉廣ヘッドコーチインタビュー

戦況を見つめる吉廣ヘッドコーチ

質問者:新シーズン初の実戦でした。振り返ってみていかがだったでしょうか?

吉廣ヘッドコーチ:練習で積み重ねてきたことを試合で実行する「再現性」という部分は、すごく出せていたと思います。これは昨シーズンにはあまり感じられなかった点です。もちろんミスも多かったですし、失点の仕方にも改善が必要なところはあります。ただ、それ以上に「練習でやってきたことが試合で出せた」というポジティブな面の方が大きく、満足しています。

質問者:昨シーズンに比べて試合での再現性が上がった要因は?

吉廣ヘッドコーチ:チーム全体の大枠を作るというよりも、今は「細かいスキル」にフォーカスして練習を重ねてきたことが大きいです。就任から2年かけて全体像を描き出す作業をやってきましたが、今シーズンからは次の段階として、より具体的で細部にわたるスキル練習に取り組めるようになりました。単純な練習の積み重ねではあるのですが、その成果が試合に表れたのだと思います。

宮嵜と話す吉廣ヘッドコーチ(右)

質問者:新加入のタカウ選手のプレーはどうでしたか?

吉廣ヘッドコーチ:彼の一番の強みはやはりフィジカルの強さです。それは今日の試合でもしっかり出せていたと思います。細かいミスはありましたが、練習に対する姿勢も真面目で、寡黙ながら考えを持って取り組む選手なので、これからチームにフィットしていけば大きなプラスになるはずです。NEC時代はリザーブでの出場も多かったので、フラストレーションもあったと思います。ブルーシャークスではとにかく試合に出て、ゲームタイムを重ねることが成長につながりますし、チームにとってもインパクトを与えてくれると期待しています。もちろんポジション争いはありますが、出場時間を長く重ねれば重ねるほど、さらに良い選手になっていくのではと期待しています。

攻め上がるタカウ

質問者:フィジカル面の強化に関しての手応えはどうでしたか?

吉廣ヘッドコーチ:これまではスクラムやモールで、主力メンバーが出ている時は安定して戦える一方で、リザーブや経験の浅い選手が入ると押し負けてしまう場面がありました。でも今は、誰が出てもスクラムをしっかり押せるようになってきています。その点で、選手たちは自分の体格や力に自信を持てるようになったと思います。ブレークダウンやタックルでも、試合経験の少ない選手が良いプレーを見せてくれました。もちろん、もっと走れるようにならなければいけませんが、それはこれから積み重ねていけばついてくる部分だと思っています。実際、ウエイトトレーニングの数値も想定以上に伸びていますし、選手たちは本当に一生懸命取り組んでくれています。あとは、ここからどれだけ「走れる体」をつくれるかです。9月はフィジカル的にもメンタル的にもタフな1カ月になると選手たちには伝えています。厳しい時期を乗り越えた先に、さらに強いチームが待っていると思います。