試合情報 Game info

◇日野レッドドルフィンズ戦マッチレポート

前半4分、トライを決めてチームメートとブルーシャークスポーズを決める金築

 清水建設江東ブルーシャークスは5月10日、夢の島競技場(東京都)で行われたNTTジャパンラグビー リーグワン ディビジョン2 最終節で日野レッドドルフィンズと対戦し、21ー22で敗れた。今季の最終成績は5勝8敗1分、勝ち点24となり順位は7位。これにより、ブルーシャークスは「NTTジャパンラグビー リーグワン2024-25 ディビジョン2/3入替戦」で、ディビジョン3・2位の狭山セコムラガッツと対戦することとなった。入替戦は2戦方式で行われ、第1戦は5月24日、夢の島競技場(東京都)で開催。第2戦は5月31日、海老名運動公園陸上競技場(神奈川県)で行われる。

試合後の引退セレモニーで挨拶する井上拓

 シンプルな一言に、全ての想いが込められていた。「僕はブルーシャークスが大好きです」。今季限りでの現役を退くことを表明している6選手が並んだ試合後のセレモニー。井上拓もその一人として、目に涙を浮かべながら、共に戦ってきた仲間や支えてくれたスタッフへの感謝、そしてこのチームで過ごした時間への誇りを静かに語った。

 井上拓はこの日、ベンチ入りは叶わなかった。それでもサポートメンバーとして試合前練習に参加し、出場する選手たちの最終調整を手伝った。肋軟骨を負傷していた身にとって、それは決して容易なことではなかったが、彼をピッチに向かわせたのは「最後までチームの一員として関わりたい」という強い思いだった。「拓の姿を見て試合前に泣きそうになりました。本当にチームが良い雰囲気なんです。試合に出ていない選手も一生懸命、最後まで練習してくれていますし、こういう文化は昨日今日でできるものじゃないと思っています。そこが一番、誇らしいです」と語る仁木監督の言葉には、井上拓だけでなく、すべての選手への敬意が込められていた。一人ひとりが自らの立場でできることを全うし、行動で示してきた。そうした積み重ねが、ブルーシャークスに根づく「信頼と敬意」の文化を育み、どんな逆境にも立ち向かえる強さをもたらしている。試合は後半ロスタイム直前に与えたペナルティーキックで逆転され、1点差での悔しい敗戦となった。入替戦に回ることが決まったが、この日ピッチに立った選手たちの懸命なプレーと、メンバー外の選手たちの献身が交わり、チームの絆はさらに深く、強固なものとなった。

前半26分、トライを決める尾﨑

 敗戦の先に見えたもの。それは、勝敗を超えた「ひとつのチーム」としての成熟だった。この日もシーズンを通して安定感を増したセットプレーが得点の起点となった。5ー0で迎えた前半26分、右サイドのラインアウトからモールで押し込むと素早いパス回しで、中央の尾﨑がディフェンスラインの間を駆け抜けてトライ。仁木監督が「セットプレーのところは非常に安定していると思います」と話すように、フォワードのモールは今季を通してチームの確かな武器となってきた。その力は、試合に出場する選手だけで育てられたものではない。スクラムもモールも、日々の練習でぶつかり合う相手がいてこそ成長していくものだ。ブルーシャークスのセットプレーの裏には、試合に出ない選手たちの惜しみない貢献があった。実際、この試合の2日前の練習では、怪我で別メニューだった白子キャプテンやバシャムが、フォワード陣のスクラム練習をピッチ脇で見守りながら、声をかけ続けていた。その姿に、チームとしての一体感がにじんでいた。

チームメートを拍手で送り出すバシャム

 練習が終わっても、ピッチに残っていたのは出場メンバーではない選手たちだった。その練習は、最終節を目前に控えた最後のセッションだった。もし次の試合に勝てば、彼らにとって今季はもう終わりだったはずだ。それでも、スクラムについて談義を交わし、熱を込めて意見をぶつけ合う姿があった。そこには「上手くなりたい」という気持ちを共有する者同士の熱があった。ラグビーを心から愛する選手たちが、楽しみながらハードワークできる。その姿こそが、ブルーシャークスの文化を体現している。この日にゲームキャプテンを務めた立川は語る。「誰かから言われたわけじゃなくて、自ら仕事をフルタイムでやりながらラグビーをやって、ディビジョン2にチャレンジしてる。しかもそれを楽しんでるというところ。そういう姿が僕らチームの強さの源だと思いますし、それをしっかりグラウンドの上で体現して、皆さんに感じていただけたらなと思ってます」。

モールで体を張る佐藤(左)とトコキオ ソシセニ

 試合後の円陣でも、その「文化」はぶれることなく貫かれていた。ロスタイムでの逆転負けという重たい現実を前に、ベンチ前に集まった選手たちは言葉少なにうつむいていた。そんな空気を断ち切るように、仁木監督が力強く声を響かせた。「タフになれるチャンスだ!」。その一言に、誰もが顔を上げた。李、野村は涙を拭いきれないまま、真剣な表情でその言葉に耳を傾けていた。その言葉は、敗戦を乗り越えて前に進むための合図となり、選手たちの心に火を灯した。

ガッツポーズするソポアンガ

 今季を通して白子キャプテンが仲間にかけ続けた言葉がある。シーズンが終わったとき、自分たちが上手くなったと心から思えるようにやっていこう」。勝っても負けても、そこに成長がなければ意味がない。入替戦は、勝ってディビジョン2に残留するためだけの戦いではない。より上手くなるために、よりタフになるために。ここからの2試合もまた、ブルーシャークスが自分たちを更新していくフィールド。自分たちのラグビーを体現するための、かけがえのない舞台である。 

試合前練習で気勢をあげるブルーシャークスの選手ら


◇仁木監督、立川ゲームキャプテン会見

試合に出場する選手を送り出す仁木監督

質問者:本日の総括をお願いいたします。

仁木監督:本日開催にご協力いただきました皆様、本当にありがとうございました。前回は(日野レッドドルフィンズとの)開幕戦で1点差で勝たせていただいて、今回1点差で負けるっていうところで、勝てば残留だったんですけど、日野さんのアタックの部分で乗らせてしまった部分、最後受けてしまったことが敗因かなと思っています。ただもうポジティブに考えると、入替戦の2試合という壁をチーム全員で取り切れることができれば得るものは相当多いと思ってますし、来期に繋がっていくと思ってます。ネガティブに受け止めても一緒だと思いますしラグビーはもう本当に気持ちのスポーツなので、無理やりポジティブに受け止めようかなと思っています。本日はありがとうございました。

立川選手:本日開催に向けてご協力いただきました皆様、本当にありがとうございました。試合に関しては、これぞラグビーっていう感じでした。こちらも日野さんも用意してきたプランを出し切って、ミスはありながらも80分間膠着した試合が続いて、色々な要因がある中で最後の最後で日野さんに勝利の女神が微笑んだのかなと。負けはしたんですけど、こういうタフな試合を乗り越えることがチームの成長に繋がると思いますので、そういう意味ではすごく良い経験ができたなと思った試合でした。 

大勢のファンが詰めかけたスタンドを背に攻め上がる立川

質問者:まずは今シーズン全体をどのように振り返りますか?

仁木監督:ディビジョン3から昇格させてもらって、順位では最下位からスタートしました。前回ディビジョン2ではなかなか歯が立たなかったっていうイメージもあったと思うんですけど、今回ディビジョン2に来させてもらって、できることがいっぱい増えたと思います。この良い流れができたことをしっかりディビジョン2で来年もやっていきたいと思っています。しっかり今日から準備して、現実を受け止めていこうと思っています。

質問者:「できることが増えた」というのはどのような点でしょうか。

仁木監督:まずセットプレーのところは非常に安定していると思いますし、ここに関して負けた試合は1試合もなかったと思ってます。あとはモールでの失点が基本的にはなかったのかなと思いますので、ここも戦えたのかなと。あとはやっぱり仕事とラグビーの両立をしっかりしてきたこと。選手は本当に頑張ってくれてますけど、頑張った結果がこの順位ですので、やっぱり努力の質だったり、時間の使い方の質みたいなものは最後の最後まで突き詰めて、レベルアップしていかなきゃいけないかなと思います。 

 ボールを運ぶ安達

質問者:個人として大きく伸びた選手がいれば教えてください。

 仁木監督:試合に出る23人もそうですし、試合に出てないメンバーもそうですね。特に試合に出ていないメンバーは、色々なモチベーションがある中でもチームファーストで体を張り続けてくれましたので、チームとしてしっかり成長していると思います。個人としても全員が成長してますので、なかなか順位をつけられないかなと思いますけど。まあ、隣にいる立川が頑張ってくれているんじゃないかな?この年(36歳)でもまだまだ彼自身も成長しようと思って意欲的に練習してくれてますし、若手を引っ張ってくれています。チームにたくさんいる若い選手が彼の姿を見て、見本にしてくれていると思いますので、こういう立川の姿はチームの文化にもなってきていると思います。チームが上がるうえでは、やっぱりこういったベテランがチームを引っ張ってくれるっていうことは、非常にありがたいです。

質問者:立川選手ご自身がチームで果たせる役割というのはどういったものだと考えていますか?

立川選手:僕はもう本当にプレーヤーなんで、とにかく常に良い準備をして、常に良いパフォーマンスをするっていうことを、もう愚直にやり続けるということだけですね。若い選手に何かアドバイスして変わるということはないと思っているので、やっぱり僕の姿を見て何か感じてくれたらなという思いで、いつもの練習や日々の行動に取り組んでいるつもりです。 

 攻め上がるマーフィー

質問者:今シーズンで※6人の選手が引退します。練習や試合をしてきて、どんなチームメイトでしたか。 

※間藤郁也選手、佐藤諒選手、櫻井大志選手、井上拓選手、佐々木周平選手、森谷直貴選手

立川選手:そうですね。今回引退する選手はたぶん自分で引退を決めた選手なんですね。 そういう意味でいうと、自分の意見をしっかり持ってたりとか、自分の軸をしっかり持っている6人だなと思いますね。練習も手を抜かないですし。僕も個人的にたくさん仲良くしていたメンバーなので寂しいですけど、自分自身で決断してラグビーのキャリアを終えられるっていうのは本当に素晴らしいことだなと思います。

質問者:今日は雨の後の試合ということで、グラウンドの状態など色々大変だったと思います。この環境を整えてくれている皆さんやスタッフの皆さんについて、どのような思いでしょうか。

仁木監督:夢の島の芝生っておそらく日本で一番良いんじゃないかなと思っています。今日もピッチに水が残ってるかなと思って実際手で触ってみましたが、全く残っているところがなかったです。本当にこれは夢の島の方々の努力の賜物ですし、こういったピッチを用意していただけるっていうところはもう感謝しかないですね。こういったピッチの中、なかなか夢の島で勝つことができてないので、そこに関しては本当に申し訳ないなというふうに思っています。ただ今日で降格が決まったわけではないですし、またこの素晴らしいピッチで試合ができるチャンスをいただいたと思っていますので、皆様に感謝を示すためにもしっかり勝って、ディビジョン2残留を勝ち取りたいと思います。

立川選手:私は江東区に住んでるんですけど、自慢のホストスタジアムだと胸を張って言えるような環境で、本当にありがたく思っています。芝生の環境もそうですし、準備してくださるスタッフの方々も含めてホスピタリティがすごく溢れている所だなと思います。 

 突進する藤岡

質問者:今日は小さいお子さんの声がたくさん聞こえました。子どもたちに向けて、これからブルーシャークスはどのようなプレーや姿を見せていきたいですか。

仁木監督:スクールとか中学校とかのデータを見るとラグビー人口は増えてるんですが、高校以降はぐっと減っていると思います。そこに関しては日本ラグビー界において色々な課題があると思いますので、我々がリーグワンのチームで居続ける以上、途中で夢や目標を諦めない環境を我々自身が作っていかなきゃいけないと思ってます。ブルーシャークスもアカデミーとして小学校5年生から中学校3年生までクラスを持ってやってますけど、そういった子たちが楽しむ方向と、競技を目指す方向と、続けるうちに色々な方向があると思うんですけど、そういった受け皿みたいな役割に最終的になっていければいいと思ってます。やりたくても場所がないという選手も絶対いると思うんですよね。我々自身がリーグワンのチームでいる以上、そのように求められることもやっていかなきゃいけないところかなというふうに思います。

質問者:試合を振り返ってみて、改善点を教えてください。

仁木監督:前半キックオフの部分で取られてしまいましたけど、やっぱりあそこは今シーズンずっと出てる課題だと思ってます。そこはやっぱり真摯に受け止めなきゃいけないですし、たらればですけどあの5点7点がなければ勝てたと思います。ただ選手も必死で一生懸命やってますんで、そういったミスがあることもラグビーだと思ってますので、ミスをしっかり補い合う、これもまたラグビーの精神だと思います。色々な反省点や後悔はもちろんいっぱいあると思いますけど、もうこれは前に一歩踏み出すしかないと思ってますし、学びとして受け止めて。前半取り切るところも最後5分のところも、そこは徹底して常々言い続けなきゃいけないかなと思います。

 スクラムを組むブルーシャークスの選手

質問者:プロセスとハードワークを大切にして戦い続けられた要因を教えて下さい。

立川選手:負けが続くと誰かのせいにしたり、色々なことを疑い出すこともあるんですね。プランが悪い、選手が悪いとか、その選手を選んでいる人が悪いとか。でもそういう話には一切ならずに、自分たちがコントロールできることについてお互いに話ができたのがすごく良かったと思いますね。そういうことも含めて、反省して改善するというプロセスがうまく回ってたのかなと。

質問者:チームで成長を感じた点はありますか。

立川選手:ゲームドライバーというリーダーが何人かいるんですけど、今年はそのリーダーたちが週2~3回集まってミーティングをしていたんです。コーチじゃなくてチームをコントロールするメンバーがしっかり指揮を執ってできたところがすごく大きな成長だったなと思います。

 笑顔を見せる野村

質問者:仁木監督は先シーズンから監督に就任しました。その中で培ってきたブルーシャークスの文化で誇らしく感じているもの、また今後表現していきたいものがあれば教えてください。

仁木監督:本当にチームが良い雰囲気なんですよね。試合に出てない選手も一生懸命最後まで練習してくれてますし、こういう文化は昨日今日でできるものじゃないと思ってます。そこが一番誇らしいですかね。今シーズンで引退する(井上)拓が、実は肋軟骨の怪我をしていたんですけど、今日は痛みを押してバックアップの練習に出てくれたんですよね。試合前に泣きそうになりましたけど、本当に気持ちの良い選手たちが多いなと思って。最後もキャプテンから拓に声出しをお願いしてくれて、そういうふうに気配り目配りできる選手が多いのも、本当に良いチームだなと思います。私自身は「気持ち(が大事)」としか言えないので、正直ラグビーについては何1つ言ってこなかったんですけど、立川やキャプテンの白子のように、しっかり舵を取る選手が引っ張ってくれている良いチームです。今日は負けて下を向いてましたけど、たぶん次の練習には皆が前を向いてきてくれると思います。

質問者:プレーヤーとして、立川選手は今後どのようなプレーや姿をファンの皆様に見せていきたいですか。

立川選手:見せたいもの、体現したいところは、ハードワークするっていうところ。そしてそのハードワークを楽しむっていうところかなと思います。誰かから言われたわけじゃなくて、自ら仕事をフルタイムでやりながらラグビーをやって、ディビジョン2にチャレンジしてる。しかもそれを楽しんでるというところ。そういう姿が僕らチームの源だと思いますし、それをしっかりグラウンドの上で体現して、皆さんに感じていただけたらなと思ってます。

グラウンドを背に記念撮影するブルーシャークスの選手ら