◇九州電力キューデンヴォルテクス戦マッチレポート

清水建設江東ブルーシャークスは5月3日、KUROKIRI STADIUM(宮崎県)で行われたNTTジャパンラグビー リーグワン ディビジョン2第13節で九州電力キューデンヴォルテクスと対戦し、34対34で引き分けた。この結果、今季の通算成績は5勝7敗1分、勝ち点は23に伸び、順位は5位に浮上した。次節は5月10日、夢の島競技場(東京都)での今季最終戦。対戦相手は日野レッドドルフィンズ。引き分け以上でディビジョン3との入替戦を回避し、来季もディビジョン2で戦う権利を自力で確保する6位以内が確定する。

試合後の円陣で肩を落とす選手たちに向かって仁木監督は語気を強めた。「状況は何も変わってない。次の試合に勝つだけ。スタッフも含めてネガティブは禁止。今回の試合に出られていない選手にとってはチャンスだよ」。27-34とリードしていた後半ロスタイム、土壇場で追いつかれてのドロー。勝てば入れ替え戦回避が決まっていた一戦を逃し、選手たちの表情には深い悔しさと喪失感が漂っていた。だが、指揮官の声が響くたびに、選手たちの目に少しずつ光が戻っていく。「次で必ず決める」。悔しさの先にあるものを全員で見据えた瞬間だった。
ディビジョン3との入替戦を回避する6位以内のラインを巡り、5位から7位の3チームがわずかな勝ち点差でひしめく大混戦。その重圧の中でも、ブルーシャークスは積み重ねてきた力を遺憾なく発揮した。相手にペナルティーゴールを許して24-27の3点ビハインドに変わった後半31分、ブルーシャークスのベンチが動いた。直後にフォワードの3選手を立て続けに投入し、逆転への布陣を整えた。「リザーブに関しては、いつでも準備してくれと常々声をかけていましたし、誰を出しても素晴らしいプレーをしてくれる選手たちです。胸を張って送り出しました」と仁木監督。その期待に応えるように、交代選手たちは勢いをもたらし、チーム全体に再びスイッチが入った。

同33分、ゴール前左サイドのラインアウトからフォワード陣がモールで押し込み、相手に圧力をかける。そこから一気にボールを展開し、右サイドへ。流れるようなパスワークの最後は、逆サイドに待ち構えていた尾﨑。2人のディフェンダーを振り切ってインゴールへ飛び込んで逆転のトライを決めた。清水建設が施工を担当し、リーグワン公式戦としては初開催となった宮崎県のKUROKIRI STADIUM。九州支店から駆けつけた約1000人の社員の前で見せた鮮やかな攻撃に、ブルーの歓喜がスタンドを包んだ。
この試合について、九州電力キューデンヴォルテクスのキャプテン、ウォーカーアレックス拓也はこう語った。「ブルーシャークスさんはボールを広く動かしてくるし、スキを見せると一気に攻めてくる。アタックは80分間ずっと脅威でした。ディフェンスも勢いよく2人が連携して飛び込んでくる」。相手キャプテンの口から自然にこぼれた「脅威」という言葉。それは、今季のブルーシャークスが歩んできた成長の証でもある。終盤に逆転トライを生み出し、最後まで主導権を握りにいく攻めの姿勢。そして、途中出場の選手たちが即座に機能し、チームとしての完成度を落とすことなく戦い抜いた姿には、選手層の厚みと戦術の浸透が如実に表れていた。ブルーシャークスの積み重ねた日々は確実に形となり、ディビジョン2の舞台で確かな存在感を放っている。

その姿はフィールド外の人たちにも影響を与えつつある。この試合の約1週間前となる4月26日、練習場の荏田グラウンドには、ソニーグループ元CEO・平井一夫氏が設立した一般社団法人「プロジェクト希望」が支援する50人以上の子どもたちが招かれ、練習見学と選手とのバーベキュー会が開かれた。練習後には子どもたちもグラウンドに立ち、選手たちと一緒にボールを追いかけ、走り回り、笑顔の輪が広がった。
「子どもたちの表情がすごく良くて、本当に嬉しかったです」と運営部リーダーの宮下正樹さんは語る。誰かに元気や勇気を与えるためには、まず自分自身が誇れる時間を生き、自信を持つことが必要だ。そうして過ごした日々は、自然とその人の言葉や立ち居振る舞いに力を宿す。ブルーシャークスの選手たちは、仕事とラグビーを両立しながら自らを磨き、悩み、ぶつかり合い、ときに挫折しながらも前へ進み続けてきた。その時間の密度こそが、今の彼らの立ち姿や言葉に説得力を与えている。グラウンドの上でただ勝つために戦うだけではない。ブルーシャークスの姿勢は、次世代を担う子どもたちにも確かに届いている。彼らは、5月10日の夢の島での今季最終戦にも応援に駆けつける予定だ。

長かったシーズンもいよいよ残り1試合。「勝ち切ることでブルーシャークスの強さの証明ができると思っていますし、今後ブルーシャークスが上を狙っていくという意思表示を見てもらえると考えています。勝つことで1つステージが上がる。全員一致団結して取りに行きたい」と仁木監督。来季もディビジョン2で戦う権利を自らの手でつかみ、未来へとつながる一歩を刻む。そして誰かの心に残るプレーを。誰かの明日を変える姿を。これまで積み上げてきたすべての時間を背負って挑む、自分たちの真価を問う80分になる。
◇仁木監督、バシャムゲームキャプテン会見(藤田コナン通訳)

質問者:本日の総括をお願いいたします。
仁木監督:改めまして、本日開催にご尽力いただきました皆様、本当にこの素晴らしいピッチを用意していただきましてありがとうございました。この1年、九州電力(キューデンヴォルテクス)さんを見習い、追い越したいという思いでやってきて、今シーズンもかなり色々な学びもいただきました。勝てなかったっていうところは、まだ追い越せなかったってところなのかなと思ってます。我々が2年前ディビジョン3に降格したのも九州電力さんに負けて降格したというところで、なんとか今シーズン2勝して壁を超えたかったんですが、まあ、超えさせていただけなかったなと。そして新たに学ばせていただいている部分と、反省すべき部分があるのかなと思っています。日野(レッドドルフィンズ)さんに勝てば(ディビジョン2)残留が決まりますので、ヒリヒリした1週間になると思いますけど、この1週間をチーム全員で乗り越えて、さらにチーム力をアップさせたいなというふうに思っています。本日はありがとうございました。
バシャム選手:本当にタフな試合でした。九州電力はフィジカルが脅威だということは試合前から認識していて、そこにフォーカスして試合中はうまく適応できたとは思ったのですが、試合の中の瞬間瞬間で、特に規律のところでチャンスを逃してしまったところが、最後の最後で取りこぼした結果につながったのかなと思います。ただ九州電力の最後の取りきる覚悟は本当に讃えたいと思います。

質問者:初めてリーグワンの公式戦が宮崎で開催されました。スタジアムやファンの雰囲気はいかがでしたか?
仁木監督:今日の会場は当社が施行させていただいた物件ですが、九州電力さんがこのためにわざわざ用意していただいたのかなというふうに思いました。ありがとうございました。首都圏とかでは味わえない本当に素晴らしい雰囲気でした。やっぱり「ラグビーどころ九州」と言われるぐらい九州電力さんを応援する熱も感じて、アウェイ感がすごく強かったかなというふうに思っています。我々清水建設の九州支店も大挙として駆けつけてくれましたが、やはり九州電力さんや宮崎県の力、意地みたいなものは感じさせてもらいながら、私自身も采配をさせていただきました。
質問者:最後のトライを奪われたシーンについては精神的なものが大きかったのでしょうか。
仁木監督: (ロスタイム突入直前のマイボールでの)スクラムのところがすべてかなと。スクラムの途中でホーンが鳴って、サイドラインから出せば試合が終わって勝つというところで、気持ちを持って集中しなきゃいけなかったと思います。ただかなりハードな試合展開でしたし、どっちに転ぶか分からないところで、たぶんホーンで気持ちが抜けちゃったのかなと。これは選手だけではなく、我々スタッフも同じ気持ちになったのかなというところが大きな反省だと思います。規律に関しては、ラグビーはペナルティーがない試合はほとんどないですし、もちろん減らさなきゃいけない部分は目標としなきゃいけないですけど、そこはコーチ陣がしっかり来週の試合に向けてフォーカスしてきてくれると思います。

質問者:後半31分に逆転された直後に選手を入れ替えて再び勝ち越しました。難しい場面だったかと思いますが、監督として迷いはありませんでしたか?
仁木監督:リザーブに関してはいつでも用意してくれと常々声をかけてましたし、いつ出しても素晴らしいプレーをしてくれる選手たちです。選んだ23人のメンバーに関しては、ベストメンバーで組んでますので、誰が出ても同じだと思ってました。運動量が落ちてきているところとか、この試合にあまりフィットしていない選手について、コーチ陣と見極めながら交代しましたので、難しいというよりは胸張って送り出したという感じです。
質問者:バシャムゲームキャプテンにお伺いします。この1週間はゴールデンウイークがあったこともあり、普段は夜間の練習が多いブルーシャークスとしては違う練習のスタイルで準備していたと思います。試合への影響はありましたか。
バシャム選手:普段は日中に練習できないのですごく良い機会でした。チーム全員でしっかり時間を取れるっていうことで、良い影響があったのかなと思います。特に今日みたいな暑い日について、普段だったら練習が夜なのですごく暑く感じてたと思うんですけど、日中の練習があったことで暑さの準備ができたのも良かったです。練習スタイルの変化が試合に影響したというのは全然言い訳にできないと思ってます。とにかく一瞬一瞬を逃したっていうのが最大の影響かなと思います。

質問者:今日は清水建設の九州支店の方々が応援に来ていました。
仁木監督:ゴールデンウィークなので、私だったら来ないかもしれないです(笑)。その中で応援に来てくださって本当にありがたいです。来てくださった社員の方々には、何かしら思いを持って帰ってもらいたい、「また仕事を頑張ろう」などという活力になって欲しいという思いでした。勝つところを見てもらってそういうことが叶うかなと思っていましたが、結果引き分けでしたので、その気持ちも半分なのかなというふうに思います。
質問者:バシャムゲームキャプテンの出身地のイングランドでは、このような日本の企業の文化は珍しいと思います。 どのように感じましたか。
バシャム選手:本当に彼らのために戦ってると言っても過言ではなくて、チームは会社を代表して戦っているので、こうやって見に来て応援してくださって本当に嬉しかったです。普段はなかなか会う機会もないので、こうやって同じ目的に向かって一緒に戦えたというのはすごく良かったです。

質問者:次の日野レッドドルフィンズ戦は最終戦という以上に意味がある試合だと思います。お2人の意気込みをお聞かせください。
仁木監督:勝てば残留が決まりますし、負ければまた入替戦になるかもしれない試合です。釜石(日本製鉄釜石シーウェイブス)さんと九州電力さんと日野さん、この3つをしっかり勝ち切ることでブルーシャークスの強さの証明ができると思ってましたし、今後ブルーシャークスが上を狙っていくという意思表示を皆さんに見てもらえると思ってますので、必ず残留しなきゃいけないです。入替戦が決まっているディビジョン3のマツダ(スカイアクティブズ広島)さんとセコム(狭山セコムラガッツ)さんは勢いがあるチームですので、勝ってシーズンを終えたいなと思いますし、ここで勝つことで1つステージが上がると思います。気持ち以外ないと思いますけど、全員一致団結して取りに行きたいと思ってます。
バシャム選手:日野さんはディビジョン3からよく知ってるチームです。毎回難しい相手なので、どれだけ良い準備をして戦えるかというところだと思います。次の試合の重みは両方とも同じだと思うので、準備のところでどれだけ良いものを持っていけるかにかかっていると思います。
