◇花園近鉄ライナーズ戦マッチレポート

清水建設江東ブルーシャークスは3月15日、夢の島競技場で行われたNTTジャパンラグビー リーグワン ディビジョン2 第8節で花園近鉄ライナーズと対戦し、10対17で敗れた。この結果、今季の通算成績は3勝5敗となったものの、順位は5位をキープ。次戦は3月22日、ウェーブスタジアム刈谷(愛知県)で豊田自動織機シャトルズ愛知と対戦する。

小粒の雨が風に流され、目の前を斜めに舞っている。3ー7とビハインドを背負った後半3分、左サイドの敵陣22メートルラインからのラインアウトは逆転への好機だった。悪天候にも重圧にも、フッカー・立川の心は乱れない。体もリラックスしていた。一呼吸おいて、胸の前に構えたボールを頭上に持ち上げる。狙い澄ましたスローイングは、ジャンパーのロウの両手に綺麗に収まった。ブルーシャークスのフォワードはそのままモールで相手を押し込み、バシャムが執念のトライ。仁木監督は「こういう悪天候の中でもしっかりスローを放ってくれる。セットプレーで崩れない展開が出来ているからこそ僅差という結果になるのかなと思います。本当にうまくなったと思います」と立川を始めとするフッカー達のスローイングを賞賛した。試合はその後に逆転を許し、昨季までディビジョン1の舞台で戦っていた強豪を相手に連勝とはならなかったものの、チームは確かな成長を示した。
向上心が成長を加速させている。今季、立川はブルーシャークスに加入する前に所属していたクボタ(現クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)でチームメートだったスローイング指導のスペシャリスト・杉本博昭さんの指導を受けている。以前は、良いスローを意識するあまりボールを早く構えてしまい、余計な力が入り精度が乱れるという課題を抱えていた。そこで、ボールを構えるのは投球の直前にとどめ、その前に意識的に深呼吸を入れるようにしたことで、次第に軌道が安定してきた。「以前は雨とか風が強い日は投げるときに緊張していたのですが、自信を持っていけるようになった」と、立川は変化を実感している。動作を一つ変えるだけのシンプルな改善のようにも思えるかもしれないが、それは経験と知見に裏打ちされた専門的なアドバイス。そして、それは受け手が真摯に向き合ってこそ初めて力を発揮する。
立川は自分で課題に気づき、誰に学ぶべきかを考え自ら動いた。その上で自分の時間とお金を投じて技術を磨いた。日中はクボタで社員として働きながら、競技を続けているという立川の状況を思えば、その決断の重みは決して軽くない。36歳にしてなお競技に向き合うその真摯な姿勢が、彼を今の立ち位置へと押し上げた。今では仁木監督の計らいにより、チーム全体で杉本さんのスローイング指導を受ける機会が設けられている。立川の行動がきっかけとなり、その効果を目の当たりにした監督がチームへの導入を決断した。その成果は着実に表れている。他のフッカーたちのスローイングの精度も高まり、ラインアウトの安定感が増した。試合の要所でチームが崩れずにいられるのは、こうした「見えにくい進歩」の積み重ねがあるからこそだ。「ワクワクするからラグビーを続けていられる」と立川は言う。それは、自分が前に進んでいるという実感があるからこそ出てくる言葉だ。努力が実を結び、プレーに手応えを感じられる。その手応えが、次の挑戦への意欲につながっていく。

その感覚は、立川だけのものではない。この試合のウォーミングアップの開始時間を前に、ブルーシャークスの選手たちはすでにベンチ前に集まり、自然と整列していた。笑顔を交わしながら時折冗談も飛び交う、賑やかでリラックスした空気。そこには試合を待ちきれないという高揚感と、全員が同じ方向を向いている一体感があった。早くグラウンドに立ちたい。ラグビーがしたい。その純粋な気持ちが、笑顔とともに溢れていた。相手が格上であっても、気後れは一切ない。むしろ、自分たちの成長を試せることを楽しんでいるかのようだった。この日、彼らは惜しくも勝利を逃した。だが、試合前から続いていたその雰囲気こそが、チームが確かに強くなっていることの証だった。

「選手は本当にタフになったなと思います。粘ってディフェンスするところや、去年は確実に取られていただろうモールのところなど、本当に日に日に成長していることを実感しています。ディビジョン2で十分戦えるというところは、ファンの方々も含め私自身も一緒に感じているところです」と仁木監督は語った。「タフさ」とは、フィジカルの強さだけを意味する言葉ではない。戦う姿勢を貫くこと、相手に立ち向かい続けること、細部の積み重ねに意味を見出すこと。そうしたメンタル面の成熟こそが、今のチームを支えている。シーズン前に掲げた目標は「4位以内」。挑戦者としてディビジョン2の舞台に立つブルーシャークスにとって、その実現はもはや夢物語ではない。勝利だけでは語れない「変化」と「成長」が今、このチームの中で息づいている。

◇仁木監督、白子キャプテン会見

仁木監督:まず、試合開催にあたり多くの方々にご尽力いただきましてありがとうございました。前回の近鉄(*1)戦では勝利して良い雰囲気で試合を迎えたんですけども、結果7点差で負けたというところです。ただポジティブな内容しかないのかなと思ってますし、悲観する内容は一切ないのかなと。むしろ勝てた試合だったのかなと思っています。ただ勝てなかった理由を来週1週間でチーム全員で見つけて、次の織機(*2)戦に挑んでいきたいなというふうに思います。本日はありがとうございました。
*1花園近鉄ライナーズ(以後、近鉄)
*2 豊田自動織機シャトルズ愛知(以後、織機)
白子キャプテン:セットアップというのがアタックのテーマでした。そこはできている部分もあったんですけど、やはりどうしても取り急いでしまって、ボールロストが目立ったのかなと。前半だけで恐らく10回以上のボールロストがあって、得点に繋げられなかったところが後半に響きました。その結果自陣で戦うことが多くなって追う展開になったところが敗因なのかなと思ってます。そういったセットからのアタックのところと、取り急がないでしっかりボールを大事にして継続するという点をまた次に向けてやっていきたいなと思っています。

質問者:監督から今回の試合においてポジティブな内容だったとお話がありました。具体的にどのような点でしょうか。
仁木監督:前回の試合でいえば、ディビジョン3からディビジョン2に上がらせていただいた我々と、ディビジョン1から下に降格してきた近鉄さんと、順位的に言えば最下位と最上位の試合となりました。その試合を勝たせていただいて、今回は7点差というところで、確実にチームとしての力はついたのかなと思っています。選手は本当にタフになったなと思いますし、粘ってディフェンスするところや、去年は確実に取られていただろうモールのところなど、本当に日に日に成長していることを実感しています。ディビジョン2で十分戦えるというところは、ファンの方々も含め感じていただいていると思いますし、私自身も一緒に感じているところです。
質問者:キャプテンからボールロストが目立ったというお話がありました。悪天候の中でボールロストを防ぐために具体的にどのような対策が必要でしょうか。
白子キャプテン:ギリギリのプレーをしないでボールを大事に扱うというところかなと思います。しっかり放れるタイミングで放らないとミスに繋がることがあるので、あまり取り急がずにボールを継続させて、大事にキープしながらボールを進めていくっていうことが大事なのかなと。自分たちが先にスコアしたいところで焦って取り急いでしまう部分があると思うんですけど、焦らずにしっかりボールを継続していくっていうところが大事なのかなと思います。

質問者:後半20分からの失点が多かった課題を克服できているのかなと思います。克服できた要因や具体的な改善点など教えてください。
仁木監督:克服したというところにはまだまだいかないのかなと思っています。ただ点数が取られなくなった点はポジティブな内容なのかなと。粘れたところと、後半から出てきた選手がエナジーを持ってチームの推進力をあげてくれた点は同じくポジティブな内容かなと思います。ただ実際後半に点数を取られて負けてしまっているので、ここに関してはやはりラグビーをやる上で多くを占める気持ちやマインドセットの部分を大切に。今回できたこと、今日出た課題をしっかりやって次の織機戦にぶつかっていくしかないかなと。このチャレンジャー精神を失ったらブルーシャークスの良いところは全て無くなると思いますので、どんな試合であれ、見に来たファンの方々にしっかり選手のプレーを見せて、何か感じて帰ってもらいたいなと思います。
質問者:悪天候でしたが、ラインアウトの特にスローイングのところがいつも通り安定して良いプレーが出来ていたように見受けられました。スローイングに関して、監督から見てシーズン初めと現在を比べてみていかがでしょうか。
仁木監督:フッカーの選手たちは皆で集まって絶えずスローを投げています。クボタスピアーズ船橋・東京ベイを引退した杉本(博昭)君が臨時コーチになって、スローイングについては教えていただいていて。そういったことも我々から提案するのではなくフッカーの選手が提案してきてくれています。本当にうまくなったなと思いますし、こういう悪天候の中でもしっかりスローを放ってくれるので、セットプレーで崩れない展開が出来ているからこそ僅差という結果になるのかなと思います。
質問者:試合前のアップの時に選手がベンチの前で整列してから一斉にフィールドに出て行きました。どのような意図があったのでしょうか。
仁木監督:何だったんでしょう(笑)。アップの時間が決められてるので、コートに入っちゃうと時間がスタートになっちゃうからちゃんと決められた時間で入っていったということだと思いますけど。ただ特に齊藤(遼太)あたりが声を出して入っていったのが良い光景だなと思いました。文化になるのかな(笑)。

質問者:藤岡(竜也)選手がエナジー溢れるプレーを見せていました。感想を教えてください。
仁木監督:合流してきた時の予想とは反対に一切物怖じすることなくチームにコミットしてくれています。逆にちょっと厚かましいぐらいね(笑)。アーリーエントリーの選手は今ラグビーしかやっていない状況なので、いつグラウンドに行ってもウエイトしたりと色々していますよ。そんな光景を見て、彼がラグビーが好きで試合に出たいということを私やコーチ、恐らく選手も感じていたと思いますし、今いるベテラン陣をそうやって若手が煽ってくれるっていうのはチームの文化になると思います。本当に素晴らしいプレーを常にしてくれるので「うちに来てくれてありがたい」という思いを持ちながら接しています。だからこそ彼を成長させなきゃいけない使命というものを僕自身含め全員持ってると思います。今後も彼がステップアップしていくところを間近で見ることができると思います。
白子キャプテン:ボールタッチも良いし、本当に物怖じせずにアグレッシブにプレーしていた感じがします。ゲームに入りすぎちゃうとどうしてもコミュニケーションが取れなかったりするんですけど、そういったバランスも良くて、アイコンタクトなどでもコミュニケーションをとって、実際に藤岡からボールをもらったシーンもありました。味方にいてすごく頼もしいですし、やりやすさもありますので、新戦力・即戦力というか、自分にとっても大きな存在だと思います。

質問者:ここからの戦いに向けての抱負を教えて下さい。
仁木監督:そうですね。仕事とラグビーの両立というどのチームよりハングリーな生活をしながらラグビーに時間を捧げてくれてますんで、必ず結果が出ると思ってます。同じ相手に2度負けることは絶対したくないですし、選手含めてコーチも負けず嫌いが多いですから、必ず勝って上を目指していきたいと思います。
白子キャプテン:あまり先を見ずに、まずは毎週その相手を分析して、自分たちのラグビーをどうするのかを突き詰めて、成長しながら戦えたらいいなと思います。