◇花園近鉄ライナーズ戦マッチレポート

清水建設江東ブルーシャークスは3月1日、花園ラグビー場(大阪府)で行われた NTTジャパンラグビーリーグワン ディビジョン2 第7節で、花園近鉄ライナーズと対戦。後半ロスタイムに田森が決勝トライを挙げ、36-29 で勝利を収めた。この結果、ブルーシャークスは連敗を「4」でストップし、今季の通算成績は3勝4敗。勝ち点を「12」に伸ばして5位に浮上した。次戦は3月15日、夢の島競技場(東京都)で再び花園近鉄ライナーズと対戦する。
「みんなで写真を撮ろう」。幾多のラガーマンの歓喜と悔しさが刻み込まれてきた聖地・花園のロッカールームに白子キャプテンの号令が響いた。2ヶ月以上遠ざかっていた勝利の実感が疲れ切った体に染み渡る。この瞬間のためにやってきた。淡い蛍光灯の光の下で一人ひとりが見せた最高の笑顔が、ここまでの苦しい戦いを物語っていた。

試練の時間帯を全員の力で乗り越えた。今季のブルーシャークスはここまで終盤に失点がかさみ勝利を逃す展開が続いていた。この試合でも後半7分、18分にトライを奪われ逆転を許す。スコアは22ー29。7点のビハインドを背負って正念場に突入した。本音を言えば、リードを保ったままプレッシャーのかかる終盤を迎えたかった。しかし、これまでの悔しい経験がチームを心身ともに強くしていた。
直後にフッカーの立川を田森に交代。そこから8人の交代枠の内7人をラスト20分に集中させた。ここが勝負。ベンチからのメッセージは明確だった。「どんな状況でも最後までチームのプロセスを守り切ることが逆転に繋がる」。試合前に吉廣ヘッドコーチはそう語っていた。その言葉通り、選手たちは決意を持って自分たちの戦いを貫いた。スクラム、ラック、タックル―。常に低い姿勢を意識し、組織的なラグビーを貫いた。その積み重ねの末にチャンスは訪れた。

後半37分、ゴール前中央のラックから左にボールが展開されるとマーフィーが突進。相手ディフェンスのタックルをはじき飛ばしながら、執念のトライをねじ込んだ。バンワイクのゴールも決まり、スコアは29-29の同点に。相手の中盤での猛攻を凌ぎ切ると、ラストワンプレーを告げるホーンが鳴り響く。交代して状況をベンチから見ていた白子キャプテンはその時の思いをこう振り返る。「自分たちの戦術をそのまま遂行するだけでした。たぶんあの時点で同点で満足している選手は一人もいなくて、勝つ、攻めるというマインドでした」。挑戦者として、思いは一つだった。ブルーシャークスは22メートルライン内の右サイドで丁寧に連続攻撃を仕掛けながらゴールラインに迫った。一瞬のスキから生まれた相手の守備の乱れを田森が逃さない。低い姿勢で鋭く切り込み、決勝トライ。起き上がって右拳を握りしめたヒーローを中心に、歓喜の輪ができあがった。昨季までディビジョン1で戦っていた伝統あるチームに逆転勝利。仁木監督は「選手のハードワークには本当に感謝しかない。今日は私のラグビー人生においても大きな1日になりました」と感慨深げに語った。

技術とともに、折れない心を鍛え上げてきた。この試合の直前のある日の練習。予定していたメニューを終えた頃には、時刻はすでに22時を回っていた。権丈FWコーチが「もう遅いぞ、早く帰れよ」と声をかけたが、フォワード陣はスクラムの確認を自主的に続け、一向に止めない。「誰も言うことを聞かないんですよ」と、権丈コーチは苦笑いしながらも、その姿を頼もしそうに見つめていた。ブルーシャークスには、フルタイムで会社員として働きながらプレーする選手が多い。 彼らは限られた練習時間の中で、ただ与えられたメニューをこなすのではなく、自ら考え、納得いくまで技術を磨いてきた。決して容易な環境とは言えない。しかし、今のチームにいるのは皆、それを言い訳にせず、勝てない時期でも自分自身を向上させることを継続してきた選手ばかりだ。日々仕事とラグビーを両立しながら戦う彼らは、本来どんな相手よりもタフな体と心を備えていた。足りなかったのは経験値。今回の勝利を通して、チームのプロセスを完遂するための信念はより強固なものになった。

この日の試合会場の花園ラグビー場は、ブルーシャークスにとっても縁のある場所だった。1929年に日本初のラグビー専用の競技場として開場したこの「ラガーマンの聖地」は、クラブのオフィシャルパートナーである清水建設が施工を担当した。 2018年には、翌年開催のワールドカップに向けた大規模改修工事も手がけるなど、日本のラグビー文化の発展に深く関わってきた。清水建設OBであり、当時の改修工事で現場の責任者を務めた板井川篤さん(71歳)は自身も元ラガーマンであり、ブルーシャークスが前身の清水建設ラグビー部として活動していた時代からチームの歩みを見守り続けてきた。思い入れのある競技場で、愛するチームが成し遂げた快挙を見届けた彼は、こう呟いた。「生きている間に花園でブルーシャークスがライナーズに勝つところを見たかったけど、これで思い残すことは無くなった。本当に強くなったね」。誇りと感慨に満ちた思いが、言葉の端々に滲んでいた。長い歴史を持つ花園の地で、清水建設ラグビー部をルーツに持つブルーシャークスはただの挑戦者ではなかった。受け継がれる文化の一部となり、新たな伝統を創り上げる存在として、この試合の勝利は特別な意味を持っていた。

「今回は勝たせていただきましたけど、あっちに転ぶかこっちに転ぶか勝負の綾だったので、課題が克服できたかというとまだまだそのレベルではありません。(次節に)また近鉄(ライナーズ)さんとやらせていただきますけど、そこで勝つことでようやく克服と言える」と仁木監督は表情を引き締めた。挑戦を続ける限り、成長は止まらない。試合ごとに積み上げてきたものがこの日、確かな成果として刻まれた。今は目の前の戦いに集中する日々だが、振り返ったとき、それが新たな伝統の礎となっていることに気づくだろう。次の試合もまた、歴史を紡ぐ大切な戦いとなる。
◇仁木監督、白子キャプテン会見

質問者:本日の試合の総括をお願いいたします。
仁木監督:まず初めに、試合開催にあたり多くの関係者の方々にご尽力いただきまして、この素晴らしいラグビーの聖地・花園でプレーすることができました。本当にありがとうございました。試合に関しては、4連敗して挑んだ試合でしたが、チャレンジャー精神というところを練習から常々言い続けてきましたので、その結果が勝利という形に結びついたのかなと思います。選手のハードワークには本当に感謝しかないです。ありがとうございました。
白子キャプテン:後半の戦い方が課題だったんですけど、そこの部分が今日はうまく修正できたのかなと思っています。ただ花園近鉄ライナーズさんのプレッシャーにかなり押されてしまって、後半攻めあぐねた部分だったりなかなかトライができない時間帯があったので、次節で再戦する時にはそこを修正して頑張りたいと思います。
質問者:最後に後半40分を告げるホーンが鳴った後のスクラムのマイボール、チームとしてはそこからどのような展開で点を取っていこうという意識だったのでしょうか。
白子キャプテン:まず自陣で戦ってしまうとペナルティになった時に深く入られてしまうので、まずは「敵陣に敵陣に」と言っていました。ただホーンが鳴った後はもう攻めるしかない、振り切って攻めるだけというところで、自分たちの戦術をそのまま遂行するだけでした。たぶんあの時点で同点で満足している選手は一人もいなくて、勝つ、攻めるというマインドでした。

質問者:後半の戦い方に課題があったというお話がありました。チームの成長した点、どのような点が結果につながったのでしょうか。
白子キャプテン:アタックではボールロストしてしまう、ディフェンスだと我慢できずにペナルティをして自陣に入り込まれてしまうというのがパターンだったので、まずはそこをなくそうという意識がありました。あとは課題の残り20分のところを「またこの時間帯か」と捉えるんじゃなくて、チャレンジャーらしくチャレンジしていく、ハードワークすることに逃げないでチャレンジしようっていうポジティブなことを声がけしました。4試合で負けた課題に対してポジティブにチャレンジしていく、そういったところをこの1週間やってきました。
質問者:後半の課題に対して、戦術以外に体力的にも克服できたという印象でしょうか。
仁木監督:今回は勝たせていただきましたけど、あっちに転ぶかこっちに転ぶか勝負の綾だったので、課題が克服できたかというとまだまだそのレベルではないと思ってます。実際また近鉄さんとやらせていただきますけど、そこで勝つことでようやく克服と言えるんじゃないかなと。変なゲームをしてしまうと「ラッキーだったのかな」というふうに言われる可能性もありますんで。今日はたぶんまだ選手も浮かれていると思いますけど、明日以降しっかり締めて、次の近鉄戦を迎えていきたいなと思います。
白子キャプテン:トライがなかなか認められないシーンやペナルティ、反則を犯してしまったりとなかなかきつい時間があったんですけど、そこを我慢しきったという面では成長できたのかなと思っています。あとは後半だけじゃなく前半で相手陣に入った時に必ずスコアできた、ちゃんと点数を積み重ねられたというところも大きかったのかなと思います。

質問者:この花園ラグビー競技場は清水建設に縁のある競技場と伺っています。公式戦を戦い勝利し、清水建設江東ブルーシャークスのラグビーとしての文化を積み重ねていっていると思いますが、その点についてご感想をお願いします。
仁木監督:そうですね。弊社が施工させていただいて、ワールドカップでも対応をさせていただいたという本当に思い入れのあるラグビー場です。高校生ラグビーの聖地で、私ももちろん目指しましたけど、こういう場所に会社として携われることは非常に大きいことだと思います。ブルーシャークスは文化を作っている最中で、皆で一つ一つ目的を果たしていく、目標に向かって全員でやっていくというところがあります。実は私は花園で勝ったことがなかったものですから、こういう形で勝たせてもらったことは選手に感謝しかないです。私のラグビー人生の中でも今日という一日は大きい一日でした。
質問者:清水建設江東ブルーシャークスのプレーヤーとしてこのラグビー場に立った今のお気持ちはいかがでしょうか。
白子キャプテン:第90回全国高校ラグビー大会で長崎北陽台さんと戦った時にこのピッチで試合をしたことが思い出にあります。やはり聖地なので、その後も何回かこのピッチで戦わせていただいていますが、やはり気分が高揚するというか、ラガーマンの憧れの地で試合できるということはすごく嬉しいことですし、試合前にもそれを皆に伝えて出てきました。

質問者:ケガから復帰した大﨑選手の評価をお願いします。
仁木監督:後半20分からが課題という中で、出てくる選手がやはりエナジーを持ってチームにインパクトを与えてくれないと厳しくなってくるというところがありました。彼はサンバチーム(試合に出ない選手のチーム)でめちゃくちゃ良いプレーをしてスタメンの選手を煽ってくれていました。この一年リハビリでかなり厳しい姿も見てきましたけど、今日という日は彼にとっても私にとっても大きな一日だったのかなというふうに思います。

質問者:次節に向けてどのようなものを積み上げていきますか。
仁木監督:今回勝つことによって課題をクリアできましたけど、ペナルティの部分や規律の部分などまだまだ課題はいっぱいあると思っていますので、シーズンが終わった時にこういった課題がクリアできていればいいなと思います。選手、スタッフともに本当に頑張ってくれていますので、乗り越えられない課題じゃないのかなと思います。
白子キャプテン:今日で折り返しということで、今後はチームで出た課題をもう1回復習して戦える機会があります。具体的な課題については戦術に関わることなので言えないのですが、しっかりその課題に向き合って、また積み上げを行って、一戦一戦大事に戦っていきたいなと思っています。

◇大﨑選手一問一答(左ひざの手術から復帰して昨年1月以来の公式戦出場)

質問者:本日の試合を振り返って、いかがでしたでしょうか。
大﨑選手:まず勝てたことがすごく嬉しいです。そしてこのような良い試合で復帰させてもらったことが本当にありがたいと思います。また1年間リハビリに付き合ってくださったメディカルスタッフの方々とS&C(ストレングス&コンディショニング)トレーナーの方々に本当に感謝しています。
質問者:後半から途中出場してすぐにすごいタックルがありました。アドレナリンが出ていた感じでしょうか。
大﨑選手:そんなにすごいタックルをした記憶はないんですけど(笑)。自分のところに来た相手だったのでしっかりタックルしました。

質問者:劇的な勝利でしたが、最後1本取り切るということはチームで共通の思いがあったのでしょうか?
大﨑選手:ここ4戦くらい最後20分で崩れて負けるということが多かったので、ラスト20分にフォーカスをして集中力を高めて頑張ろうという話はしていました。そのタイミングでちょうど自分が出させてもらったというのもあって、最後20分どれだけ集中力を持続させられるかというところだったのかなとも思うので、周りへの声がけとかも含めて良く出来たんじゃないかなと思います。
質問者:この1年間はすごく長かったんじゃないかと思います。復帰まで頑張れた理由はなんでしょうか。
大﨑選手:とにかく一貫性を持ってやるというところは自分のテーマとしてありました。常にモチベーション高くできたわけでもなかったんですけど、仕事もしながらそこは自分に鞭打って、自分で決めたことをやり切るということをテーマにやっていたので、そこで自分に甘えなかったというところで頑張れたんじゃないかなと思います。

質問者:復帰戦が聖地・花園、しかも劇的な勝ち方をしたこともあり非常にドラマチックなストーリーに見えます。
大﨑選手:メンバーが喜んでいる声で勝ったことはすぐわかったんですけど、最後ラックに巻き込まれて顔を上げたらトライを取っていて。すごい劇的な勝利だったと思います。
質問者:大﨑選手の復帰はサンバチーム(試合メンバー以外の練習でのチーム名)の選手にとってもすごく勇気になると思いますが、これからチームでどのようなものを積み上げていきたいですか。
大﨑選手:サンバチームが良いプレッシャーを与えているから試合に出るメンバーも良い準備ができているところはあると思います。サンバチームは相手チームのコピーをしてやっているという点で自分もそこにいる時には複雑な心境になる時もあったんですけど、そこでしっかりチームのために動いていることを監督も見てくれていると思います。チーム全員が自分の役割を全うできるというところがブルーシャークスの強みかなと思うので、それをこれからも続けていけたらと思います。
質問者:次から後半戦に入ってきますが、どのようなプレーを見せていきたいですか。
大﨑選手:この試合で復帰させてもらいましたけど今後また出られるとは限らないので、チーム内でしっかりアピールをしてまずはメンバーに定着するところですね。あとは前半戦勝ち切れなかった相手との再戦があるので、そこでしっかり自分が出てインパクトを与えて勝ち切れるようにしたいなと思います。
