試合情報 Game info

◇NECグリーンロケッツ東葛戦マッチレポート

試合後の円陣で笑顔を見せる吉廣ヘッドコーチ

 清水建設江東ブルーシャークスは2月22日、柏の葉公園総合競技場(千葉県)で行われたNTTジャパンラグビーリーグワンディビジョン2第6節で、吉廣ヘッドコーチが選手として在籍していたNECグリーンロケッツ東葛と対戦。23-50で敗れた。これにより今季の通算戦績は2勝4敗、順位は6位となった。次節は3月1日、東大阪市花園ラグビー場(大阪府)で花園近鉄ライナーズと対戦する。

試合後に健闘を讃えあうブルーシャークスの選手

 敗戦に肩を落としながら円陣を組む選手を前にした吉廣ヘッドコーチは、個人的な悔しさを内に隠した。会社員としてフルタイムで働きながらディビジョン2で戦うという過酷なミッションに挑む選手たち。その努力を最大限、形にしてあげること。それがヘッドコーチとしての信念だった。その信念に立ち返ったとき、取るべき行動も、選手たちにかける言葉も決まっていた。「(自分たちのラグビーを)やれている時間はあった。その時は全然相手に負けていない。それを試合を通して継続できるようにやっていこう」。努力は着実に形になってきている。だからこそ、信じて前に進んで欲しい。吉廣は選手達にその思いを伝えたかった。

 吉廣にとって、特別な意味を持つ試合だった。ブルーシャークスに来る前、選手として14年間在籍した古巣のホームグラウンドで、2月22日に行われた一戦。現役時代につけていた背番号は22番。その偶然とは思えない巡り合わせに不思議な縁を感じた。この試合でブルーシャークスで過ごした年月の真価が問われるのではないか。そう感じた。直前に散髪し、ゲンを担いで決戦に臨んだ。かつての習慣でホームチームのロッカールームに向いかけた。聴き慣れた応援のコール、緑色に染まったスタンド。何もかもが懐かしい。前半13分、ゴール前での度重なるアタックの末にバンワイクが左サイドに力強く先制トライ。静まり返るスタジアムに、ここが敵地であることを改めて実感した。後半20分過ぎからは焦りからのミスやファウルが続き最終的に点差が開いたが、日本ラグビーを牽引してきた名門チームを相手に一進一退の攻防を繰り広げた。

 試合後、吉廣ヘッドコーチは選手たちの戦いぶりを振り返り、こう語った。「選手たちは、今回の試合で手応えを感じたんじゃないかと思います。 経験を積まなければ、最後の20分を戦い抜く力は身につかない。しかし、準備してきたことを試合で発揮した時には、どんなチームが相手でも戦えることを証明してくれました」。目標としていた柏の葉での勝利は持ち越しとなったが、得たものも大きかった。

気合いの入った表情でスクラムを組む立川

 「後悔したくない」。その一心でがむしゃらに走り続けてきた。NECでは114キャップを誇るレジェンド選手であり、本社のスポーツビジネス推進本部でプロモーションも担当。しかし、スポーツビジネスに関わる人間としてより成長するために異なる環境に飛び込みたいという思いが次第に強くなった。2022年7月、安定した会社員と選手としてのキャリアを手放し、ブルーシャークスのマーケティング担当に就任。リーグワン参戦直後のチームで、ファンクラブ運営、チケット販売、グッズ企画、SNS発信、小中学生向けのラグビーアカデミーの立ち上げまで、認知拡大に幅広く尽力した。

 多忙な日々を送って10ヶ月ほどが過ぎた頃、吉廣は新たな選択を迫られた。ヘッドコーチ就任の打診―。再び人生の大きな決断を求められる瞬間だった。指導者としての経験も実績もない。それに加え、マーケティングリーダーの仕事を兼務しながらチームを再びディビジョン2に導くという厳しい条件。それでも自分の心に正直に向き合うと、答えは一つしかなかった。「逃げたくない」。吉廣の決断は、いつも心に素直だった。NECを退社したときも、選手としての引退を決めたときも、家族を言い訳にせず自分の意思で結論を出した。自己中心的に見えるかもしれない。しかし、自分の気持ちを大切にしているからこそ、他者の心にも寄り添える。人を大切にできること。それこそが、吉廣の指導者としての最大の魅力だった。

 だから、指導者としても「押し付ける」のではなく、選手が自ら学び考える環境を整えることを大切にした。短い時間で戦術を理解できるよう、清水建設の企業文化にヒントを得て、事前に資料を配布。ミーティングではクイズ形式を採用し、選手が楽しみながら積極的に参加できるよう工夫した。また、実践練習の前にはメンバー外のミーティングにも顔を出し、チーム全体の士気が上がるよう行動でメッセージを送った。選手一人ひとりに寄り添い、彼らが自信を持ってプレーできる環境を作る。吉廣の指導スタイルは、まさに「人を大切にする」ことを軸にしていた。

後半17分、フォスターのトライに喜ぶブルーシャークスの選手ら

 この試合でアーリーエントリーとして初出場し、1トライを挙げた藤岡は「新しいチームに入ると最初は居心地が良くないもの。でも、ブルーシャークスは違いました」と話す。試合後、彼はこう続けた。「練習初日で緊張していたのですが、みんなが『おはよう』とか『調子どう?』って声をかけてくれました。歓迎されているんだなと感じたし、本当に人柄が良いチームだと思います」。藤岡の言葉には、このチームの温かさがにじんでいた。加入間もない新人が「貢献したい。恩返ししたい」と言うほどのチーム愛を抱けるのは、単なる偶然ではない。吉廣ヘッドコーチが掲げる「人を大切にする指導」は、確実にチームに根付いている。選手やスタッフが互いに尊重し合う文化を育むこと。それが、ブルーシャークスの強みとなりつつある。

 「ヘッドコーチを辞めるまでに柏の葉で勝ちたいですね。達成したいです、絶対に」と吉廣は笑った。勝つことでしか報われない思いがあるのだろう。それは本人にしか分からない。だが、他者に影響を与えチームを変えていくことや文化を育むことはきっと、勝利よりも難しく、尊い。吉廣がブルーシャークスで過ごしてきた時間は既に、かけがえのないものになっている。


◇仁木監督、ジョシュア・バシャムゲームキャプテン会見

ラインアウトのボールを掴むバシャム

質問者:本日の試合の振り返りをお願いします。

仁木監督:本日はありがとうございました。この試合の開催にあたりご尽力いただいた皆様本当にありがとうございました。初めに少し昔話をさせていただくと、我々が始めた頃はNECはトップチームで活躍されているチームでした。公式戦初めての試合ということで、ようやくディビジョン2にあがって、ようやくこのレベルでプレーができたんだなと、実感させていただきました。試合は負けてしまいましたが、ポジティブな内容が多々あったかと思いますので、次にもう1度やらせていただく時はしっかり借りを返したいなと思っております。本日はありがとうございました。

ジョシュア・バシャム選手:まずはNECチームにおめでとうございますと言いたいです。勝利に値するようなパフォーマンスだったなと思いました。そんな中でも自信がつく場面はたくさんあって、これまでもプロセスというところを一貫してやりきろうというところはやってきているんですけど、このディビジョン2という高いレベルにまだ慣れていっている段階なので、ここからまた経験を積んでそのプロセスをやり切るというところにフォーカスしていきたいと思っています。

質問者:後半15分頃まで拮抗して良い展開だったかと思います。その後の展開についてと、今後の対策を教えてください。

仁木監督:そうですね。常々先手必勝ということを練習から言ってきていましたし、行けるところまで行って、あとは気持ちでというところを言ってきました。あとはやはりNECさんの方が上手(うわて)だったのかなと思います。

質問者:さきほどポジティブな試合内容が多々あったというお話がありました。どのような点でしょうか?

仁木監督:急遽メンバー変更がありましたが、代わった選手が自分の役割を全うしてくれたかなと思います。これはチーム力が上がってきた証拠だと思います。今日試合に出ないメンバーの練習も見てきましたけど、良い雰囲気で練習をしているので、本当に全員が良い準備をしてくれているなと。あとはラインアウトの要のトム・ロウがいなくなったのが痛かったのですが、日髙(駿)含め代わってくれた選手が本当に頑張ってくれました。

選手の練習を見つめる仁木監督

質問者:劣勢になった時にチームのプロセスを守るためには何が大切になるのでしょうか?

仁木監督:ラグビーは15人で互いの強弱を補い合ってやるスポーツだと思います。うちのチームは皆で声を掛け合って勝利に向かっていて、チームワークに関してはどこにも負けていないと思っていますので、そこがうちの強みだと思っています。

ジョシュア・バシャム選手:やはり80分間やり切るということができていなくて、一貫性がまだまだないのかなという風に感じています。NECさんのような強いチームは一瞬の隙をついてスコアまで持ってくるチームなので、どれだけプレッシャーをかけられていても自分たちの基本に立ち返るというところをもっと意識してやっていかなければいけないと思います。

質問者:アーリーエントリーで出場した藤岡(竜也)選手がトライを決めました。彼の評価を教えてください。

仁木監督:私が彼を見たのは大学2年生の時でしたが、その試合を見て「欲しい」と思いました。大阪へ何回もリクルーティングに通わせてもらって本人と話をして、ブルーシャークスを選んでいただきました。期待通りのプレーをしてくれましたし、今後にも絶対繋がってくると思います。ポジションを取られた先輩も悔しい思いをしていると思いますし、逆に同じ時期にアーリーエントリーで入った選手は「やってやるぞ」という気持ちになっているのではと思います。まだまだ発展途上の選手ですし、これからの選手だと思いますが、リーグワンのデビュー戦としては上出来だったかなと思います。

気迫のプレーを見せるバシャム

質問者:今回の対戦相手のNECは吉廣(広征)ヘッドコーチの古巣でした。仁木監督は常日頃から吉廣ヘッドコーチへの信頼を口にされていますが、どのような点について信頼を置いていますか。

仁木監督:本来は今日ここ(会見の場)に吉廣が座るべきだと思ったのですが、私が座らせていただいてます。彼は退路を絶ってブルーシャークスに来ましたが、誰よりも24時間ラグビーのこと、当チームが良くなることを考えて、戦術だけでなく選手のことを考えてやってくれていると思います。私自身はグラウンドに関しては一切口を出していないので、彼に全て託して、任せています。吉廣がヘッドコーチになったことでチームが変わったことを選手も実感していると思いますし、文化・歴史を刻み始めたチームなので、吉廣の力がこれからも必要だと思います。

質問者:バシャム選手は今回急遽キャプテンになりましたが、心がけたこと、他の選手に伝えたことを教えてください。

ジョシュア・バシャム選手:まずはこのような状況の中でキャプテンに選んでいただけてすごく光栄ですし、信頼してくれたコーチ陣に感謝しています。自分の役割をクリアにして、それをやり切ることで周りが動きやすいようにするということを意識することでチームメートからリスペクトを集めることが肝心だと思ったので、そこを遂行するよう心がけました。チームメートも含め試合中どうしてもブレることがあるので、マインドセットを正しく持ってそこに集中するということを他の選手に言っていました。

質問者:次の試合に向けての抱負をお願いします。

仁木監督:後半15分くらいまでは本当に良いゲームができていたと思います。私も悔しいと思えていることが唯一の収穫なのかなと。ただ悔しいままで進んでも勝てないので、スタッフ含めチーム全員で課題と向き合って、壁を乗り越えて立ち向かっていきたいなと思っています。

ジョシュア・バシャム選手:基礎は築けたと思うので、次はどれだけ積み上げていけるかというところ。今日からしっかり学んでいかなければいけないなと思います。勝てるという自信は今日見えたので、少しの瞬間を逃さないように、しっかりやり切るというところを次の試合も集中していきたいと思います。


◇吉廣ヘッドコーチ一問一答

試合後の円陣で選手に声をかける吉廣ヘッドコーチ

質問者:試合を振り返って、いかがでしたでしょうか。

吉廣ヘッドコーチ:皆すごくがっかりしていて、それはつまり手応えがあった証拠だと思います。もちろん勝ちたかったですけど。円陣でも言ったんですけど、いけるのにいけないから気持ちが下がっていってしまう。経験しないと最後の20分は強くならない、これは練習でどうこうできることではないんで。前半余裕がある時は皆準備していたことをクリアにできるんで、準備したことができれば必ずどのチームもいける。次は花園近鉄ライナーズとやってまた前半しっかり出せれば、後半はあと修正するだけになるので、そういう意味ではポジティブでした。もったいないところは自ら(相手に)あげているトライがほとんど。もったいないけど、そう言ってばかりでは結果がついてこないので、そろそろというところです。

質問者:ここ最近の試合の中で、後半の残り20分での改善点は?

吉廣ヘッドコーチ:後半20分を意識するかもしれないけど、それよりも前半でもっと点を取れるところで取りきれない、相手が慌てる点差までもっと点を取らないといけないと思います。選手層や経験は相手チームの方が上かもしれないけど、こちらは自分たちの役割をいかにやるかというところ。焦らず自分たちの役割をそれぞれが果たすことが一番で、急にフィジカルが負けることはないですから。今日の試合は特に運動量など身体的に負けた内容ではなかったです。「なんとかしよう」と思うことは良いことですが、それにより一人ひとりが役割以外の行動をすることが増えやすくなります。どんなに点差が開いても同じことをやることがチームにとっては一番良い。何点差になっても自分の役割を全うする、同じことをやり続けるからこそ逆転が可能になることがあると思っています。

質問者:吉廣ヘッドコーチは公式戦としては初めて古巣のNECと対戦しました。感想を教えてください。

吉廣ヘッドコーチ:NECへの応援コールとかを聞いて「前はこんなのを聞いてたな」とか、「NEC応援されてるな」というのは感じました。あとはブルーシャークスが点を入れた時、会場が静かになっていたのを目の当たりにすると…。今日会場に入ってくる時はブルーシャークス側ではなくNEC側に行ってしまったんですけど、「あぁ、癖は残ってるんだな」と思いました。今は違うチームでやっていますけど、すごく良いチームでしたし、自分がNECで14年やってきたことは誇りに思ってます。ブルーシャークスを抜きにしたら早くディビジョン1に戻って優勝していた時に戻って欲しいと思ってます。今はブルーシャークスが勝つことだけを考えてますけど。試合についてはいつも通り、勝ちたかったなという感じです。チームとしては結構ポジティブな内容でした。開幕から2連勝した時より今の方が強くなっていて中身も良いので、そういう意味ではそれが見えて良かったですね。NECには特別な気持ちがありますね。やっぱり(ヘッドコーチを)辞めるまでにはずっと自分がいた場所としての柏の葉で勝ちたいというのはあります。辞めるまでに達成したいですね、絶対。


◇藤岡竜也選手一問一答(初出場で初トライを決めたアーリーエントリーのルーキー)

試合後の円陣で笑顔を見せる藤岡

質問者:本日の試合、いかがでしたか。

藤岡選手:ディビジョン2の強さを初めて知れました。これからもっと頑張ろうと思いました。

質問者:初トライの感想を教えて下さい。

藤岡選手:自分の実力ではないですが、皆のバトンを受け取ってトライできたのはすごい嬉しかったです。

質問者:あだ名として「ディーン」「ディーン藤岡」と呼ばれていますが、普段からその呼び名ですか?

藤岡選手:はい(笑)。(近畿)大学時代から言われていました。先輩で同じ「タツヤ」という名前の方がいたので、区別するために自分から「ディーン」と言っていました。

質問者:試合後の円陣で「入って間もないけど悔しい」と言っていたのが印象的でした。ブルーシャークスというチームにどのような点に魅力を感じていますか。

藤岡選手:練習初日、自分で緊張するのがわかっていたんですが、皆さんが「ディーンおはよう」とか「調子どう」って声をかけてくれて、チームに歓迎されているんだなと思えました。普通新チームってあまり居心地が良くないと思うんですけど、そんな風に迎えてくれて、本当に人柄が良いチームなんだな思います。恩返ししたいと思えるチームです。

質問者:じゃあ今日はあまり緊張しなかったですか。

藤岡選手:そうですね。色々な方が「ミスするのが当たり前だから思い切って」と気を遣ってではなく、本気で言ってくださっていたのがわかったので。

質問者:次節以降の抱負を教えて下さい。

藤岡選手:自分の強みはフィジカルなので、ディビジョン2で通用するフィジカルをもっと作っていって、チームに貢献できる強いバックスになっていきたいです。