12月22日 日野レッドドルフィンズ戦マッチレポート
清水建設江東ブルーシャークスは12月22日、群馬県の太田市運動公園陸上競技場で行われたリーグワンディビジョン2の開幕戦で日野レッドドルフィンズに25-24で競り勝ち、白星スタートを飾った。ディビジョン2では2023年3月19日の釜石戦以来となる勝利を挙げて、勝ち点「4」を獲得。12月28日に開催される次節は、本拠地の夢の島競技場で九州電力キューデンヴォルテクスと対戦する。
ブルーシャークスの歓喜の雄叫びは、フィールドに吹き荒れる強風にもかき消されることなく響き渡った。逆転を狙う日野レッドドルフィンズの猛攻を気迫の守備で食い止め、わずか1点のリードを守りきった。ラストワンプレー、自陣22メートルライン付近で相手のペナルティーでもらったボールをソポアンガがサイドライン外に蹴り出すと、選手達は抱き合いながら勝利の喜びを分かち合った。験担ぎの散髪をしてこの試合に臨んだ吉廣ヘッドコーチは「課題はあると思うけど、勝ちながら次に繋げていけるのが一番いい」と選手の奮闘を讃えた。
ここぞという場面で発揮された精度の高いセットプレーと強い気持ちが、相手を上回った。20-19で迎えた後半28分、ゴールまで10メートル付近の右サイドからのラインアウトを中央に展開。ラックから臼井、桑田へと繋ぎ、最後は左サイドの森谷が一気に抜け出してトライを決めた。2本のトライを挙げてプレーヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれたWTBは「突っ込むのは決めていました。まさか抜けるとは思わなかったんですけど、タイミングが良かったです。今日は同じように今季からディビジョン2に上がったチーム同士の対戦だったので、絶対負けられないと思っていました。スタートダッシュを切れたのはとても大きい」と胸を張った。開幕戦の緊張感にも、強風の中でプレーする難しさにも揺るがない技術をチーム全体で培ってきた。その結果が終盤での貴重な加点に結びついた。
暗がりからの再出発だった。ブルーシャークスは2シーズン前のディビジョン2ではわずか1勝に終わった。九州電力キューデンヴォルテクスとの入れ替え戦ではホームで大敗を喫してディビジョン3に降格した。新たに就任した仁木監督にはチームの土台からの再建が課せられた。ブルーシャークスは会社員としてフルタイムで働く選手がチームの大半を占める。その厳しい環境の中で、指揮官は練習への参加率がメンバー選考の最重要指標の一つであると明示した。改革の過程で少なくない選手達がチームを去ったが、覚悟は揺るがなかった。
「自分の仕事は選手やスタッフが思い切って仕事ができる環境を用意してあげること」と仁木監督は語る。練習メンバーが揃えば、継続して質の良いトレーニングができる。その中で、成長する選手がきっと出てくるはず。仁木監督はそう信じた。練習では常にグラウンドの外側から選手やスタッフの動きを観察して、適切なタイミングで声をかける。リハビリに励む選手のところにも足を運んだ。「監督に見てもらえてたり、気にかけてもらえたら嬉しいと思うんですよ。それで頑張ろうってなってくれたら」。その姿勢が選手達の信頼を集めた。居残りだけではなく、会社の仕事を調整して早出の練習をする選手もでてきた。忘年会シーズンの今でも、乾杯だけ参加してグラウンドに来てくれる選手もいる。プロテインの消費量が明らかに増えた。改革の効果は着実に表れている。
昨季の序盤、勝ち切れない試合が続いた際には、仁木監督自ら吉廣ヘッドコーチに頭を下げた。「ごめん。星勘定を気にしていた自分の姿勢がチームに伝わっていたのかもしれない。次からは1戦必勝の体制で臨んでいこう」と謝罪し、方針を修正した。また、今季からチームの移動着をスーツからラルフローレンの黒のスウェットセットアップとナイキのスニーカー「エアフォースワン」に変更。選手の負担を軽減しながらも、ラグビー選手として尊敬される姿を保ち続ける狙いがある。スタッフや選手一人ひとりの苦労を理解し、成長を支える環境を整えるだけでなく、必要とあれば頭を下げ、自分の非を認める柔軟性。仁木監督のリーダーシップの根底には、他者に寄り添う優しさがある。その優しさこそが、現在のブルーシャークスの挑戦を根底から支える原動力となっている。
ホーム開幕戦となる12月28日の次節は夢の島競技場に九州電力キューデンヴォルテクスを迎える。「我々は一昨年の入れ替え戦で九州電力に負けてディビジョン3に降格していますので、何が何でも勝たなきゃいけない相手だと思ってます。 しっかり準備をして、必ず勝って年を越したいと思います」と仁木監督。指揮官がチームに浸透させたのは、優しさだけではなく闘志。強い気持ちを持って、ライバルも過去の自分達も乗り越える。
◇仁木監督、白子キャプテン会見
質問者:本日の試合の総括をお願いいたします。
仁木監督:まず初めに日野自動車の皆様、群馬県ラグビーフットボール協会(仁木監督は群馬県ラグビー協会と仰っています)の皆様、この開催にあたりご尽力してくださった皆様、本当にありがとうございました。 素晴らしい環境でプレーさせていただきました。風の強い試合でなかなかどっちに転ぶかわからない試合だったんですが、最後は今シーズン「気持ち気持ち」と言い続けてきましたので、そこの差が1点という形で現れたのかなという風に思っております。
白子キャプテン:日野レッドドルフィンズさんのプレッシャーに負けて何回もペナルティを取られてしまって、自陣に入られててしまうことがありました。 あとは自分たちが攻めあぐねて点数を取れずに自陣に戻ってきてしまうことも多くて、結構苦しい時間が続いたんですが、 最後ギリギリ勝つことができて良かったです。
質問者:初戦を取れたことへの感想を教えてください。
仁木監督:そうですね。初戦と言いながらも我々はディビジョン3から昇格して最下位からのスタートだと思ってましたので、 一戦一戦というところで、まずは14分の1を勝ったというところかなと思ってます。ただ昨年日野さんに開幕戦で負けて、チームとしてガタガタする部分があってそこから修正まで時間かかってしまい、(シーズンの)前半で苦戦したという思いもありました。今回勝てましたが、反省しなければいけない内容もあると思います。ただ勝って反省できるということは本当に素晴らしいことかなと思っています。
質問者:作戦はどのようなものでしたか。
仁木監督:試合開始前に「意識なく入るのはやめよう。前半10分、前半にかけて試合に入りましょう。」という話をしました。選手もしっかり遂行してくれたかなと思います。ただミスやペナルティをして陣地を奪われて失点につながるっていうケースがあったので、ここに関しての改善は絶対にしていかなきゃいけないかなと思ってます。
質問者:風がかなり強かったのですが、どのように対応したのでしょうか。
仁木監督:そうですね。まずコンラッド・バンワイクやリマ・ソポアンガがいて、こういう風の強いゲームを恐らく何百試合としてきてるであろう彼らを信頼してました。基本的にゲームプランは彼らやヘッドコーチの吉廣に任せて、彼らも任せられたことを粋に感じて体現してくれたのかなという風に思います。
質問者:群馬県での試合というのはなかなか少ないのかなと思いますが、いかがでしたか。
仁木監督:そうですね。バスケットの試合が行われるようなオープンハウスアリーナ太田があって、ここではラグビーの試合もあってですね、本当にスポーツで多くの人が集まる場所なんだなというふうに理解させていただきました。 また当社清水建設の群馬営業所の方々も応援に来てくださったので非常に心強かったです。
質問者:ディビジョン2開幕戦での勝利についてお聞かせください。
仁木監督:個人としては嬉しい気持ちですけど、やはり14分の1、1試合勝てたというところです。今日出た23人だけでシーズンが終わることは絶対ないので、今日試合に出れなかった選手は今日の熱い試合を見て何かしら感じるところがあったかと思います。ブルーシャークスは総力戦だと常に言ってますし、誰が出ても同じプレーをしてくれると思っていますので、 今日勝てたというのはただ14分の1を勝ったというところかなという風に思います。
白子キャプテン:率直に勝ちでスタート切れたことは選手として嬉しく思います。できなかった部分も多いですが、勝って反省できるってことはすごく大きいです。年内まだもう1試合あるので、しっかり修正して、チームとして年内の試合も勝利で終われるようにきちんと準備を進めていきたいなと思います。
質問者:本日の良かった点を教えてください。
仁木監督:もう本当に気持ちの差かなという風に思いました。 今年のグランドスタッフ陣に関して、手前味噌ではありますが本当に素晴らしいスタッフだと思います。そのスタッフが作ってくれたラグビーを遂行するために必要なのは、我々がラグビーを始めた時におそらく全員が言われている気持ちだったり低さだったりっていうところが鍵になるんじゃないかと。そこの差かなという風に思いました。
白子キャプテン:最後ディフェンスの展開になりましたけど、そこでペナルティをしなかったところっていうのが1つ大きかったのかなと思います。今までそこでペナルティをしてしまって自陣に入られて、モールやスクラムでプレッシャーをかけられて失点するというケースが多かったんですけど、今日はディシプリン(規律正しいプレー)、ディシプリンっていうこと、コミュニケーションで声をかけ合ってということを連携して、もったいないペナルティを無くせた、守りきれた部分が1つ成長できたのかなと。次節でもそれを続けていけたらと思います。
質問者:選手達がグラウンドで自主的に積極的にコミュニケーションをとっていました。その様子を見て、監督はどのように感じましたか?
仁木監督:もうグラウンドに入ってしまえば基本的にグラウンドは選手の場所ですし、主体的に動くのは選手ですので、 各々がやらなきゃいけないことをしっかりやりながらコミュニケーションを取ってくれてるんだろうなという風に思いました。インカムでも基本的に絶えず声は聞こえていましたが、私が言いたいことは全て選手たちが言っていたので何も言う必要はなく大丈夫かなという風に思ってました。
質問者:プレシーズンマッチではなかなか結果が出ませんでしたが、その中でも気持ちを切らさずに来れた要因は。
仁木監督:格上のチームと試合をさせていただいて、課題や反省点がたくさん出てきましたけど、 スタッフ陣が即日レビューを上げて映像を見れる環境を整えてくれたことが大きかったです。選手も早めに頭の中に反省点を落とし込んだ上で月曜日の練習に臨んできてくれていました。
白子キャプテン:プレシーズンの勝ち負けもすごい大事ですけど、我々はチャレンジャーなので一戦一戦準備をして前回より成長できているか、開幕に向けてどういう風に歩んでいけるかに重きを置いていました。暗くなることはなく常に上を向いていく、それだけだったと思います。これからの戦いも星勘定をせずに1試合1試合を大事に、自分たちの準備にフォーカスを当てて積み上げていけたらなと思います。
質問者:吉廣コーチには「散髪をすると勝つ」という験担ぎがあって髪を切って来られましたが、お二人には何かありますか。
仁木監督:私自身あんまり験を担ぐことはないですけど、試合が始まる前の言葉っていうのは気持ちが乗っかってくれたらいいなと思いながらしっかり言うようにしています。
白子キャプテン:去年までは「怪我ない」にかけて、足の毛を剃ってたんですけど、今年からは色々自分で決めてるものを極力なくしていこうかな、自然体で行こうかなという方に切り替えてて。いつもは髭も剃ってるんですけど、今日も剃らずに試合に臨みました。
質問者:2シーズン前にディビジョン2で戦っていた時と違う点は。
仁木監督:特にないと思います。どのチームもここで勝ちたいって思いで練習してきていると思いますし、我々もそういう思いを持ってここに上がってきましたので。ただレベルは我々も含めて前回いた時よりも確実に上がっていると思います。
白子キャプテン:3シーズン前にディビジョン3で戦った時よりも昨年の方がラグビーのレベルが上がってるなということを肌で感じていました。だから昨シーズンのディビジョン3で勝つことは容易ではなかったですし、年々リーグ全体のレベルが上がってるということで常に自分たちも進化が求められると思います。シーズンごとではなくて毎試合ごとに成長していくということがすごく大事だと思うんで、引き続きそこは追い求めていきたいです。
質問者:次の試合に向けた抱負をお願いします。
仁木監督:恐らくチーム全員が思っていることだと思いますけど、(入れ替え戦で)九州電力(キューデンヴォルテクス)に負けて我々はディビジョン3に降格してますので、何が何でも勝たなきゃいけない相手だと思ってます。 しっかり準備をして、必ず勝って年を越したいと思います。
白子キャプテン:本当に悔しい思いをさせられたので、自分たちが成長した部分をしっかり相手にぶつけて絶対勝ちたいです。
◇森谷選手インタビュー(2トライの活躍でプレーヤー・オブ・ザ・マッチ)
質問者:
この一勝に対するお気持ちを教えてください。
森谷選手:
そうですね、開幕戦こけるとやっぱりずるずるいっちゃうのは結構あったんで、最初スタートダッシュ切れたのはすごい大きいかなと思ってます。
(ブルーシャークスはこれまで)開幕戦ってあんまり取ってないんですよ。去年もディビジョン3の開幕戦では負けちゃってるんで。
質問者:
久しぶりのディビジョン2での勝利でしたね。
森谷選手:
日野(レッドドルフィンズ)も去年ディビジョン3だったんで、まだ自分達がディビジョン2上がったなって感じがあんまりないですけど、今日は同じように今季からディビジョン2に上がったチーム同士の対戦だったので、絶対そこで負けちゃダメだなと思っていました。だから次の九州電力(キューデンヴォルテクス)の試合から気持ちも少し変わってくるのかもしれないです。
質問者:
2つトライを決めました。特に後半28分のトライはチームにとっても大きな1本だったと思います。
森谷選手:
そうですね、外に味方の選手が余ってなかったんで、外側に誰か足の速い選手が来ないかなと思っていたらチャンスが来ました。突っ込むのは決めてたんですけど、まさか抜けると思ってなかったんで。たまたまスペースが空きました。タイミングが良かったです。
質問者:強風で1度ゲームが中断しました。あの時はどのようなコミュニケーションを取っていたんですか。
森谷選手:どうやるかっていうのだけ話をして、いろんなオプションがある中で次はこれにしようということだけ話してた感じですね。
質問者:接戦になりましたけど、相手に競り勝てた要因は。
森谷選手:
最初ずっと攻め込まれてましたがそんなに簡単に取られなかったっていうのが1つ。それと途中から相手の陣地のところでずっと取りきれてなかったので、すごく苦しかったんですけど、そこにい続けられたから、 なんとかリードを保てたかなと。
質問者:点を取られそうなとこでも取られなかったですね。
森谷選手:
そうですね。最初のところが大きかったです。
質問者:ここまでプレシーズンマッチ通じてなかなか勝てない試合が続きました。
森谷選手:
たくさん試合をしたので勝ったり負けたり色々ありましたが、選手も様々な連携ができるようになっていきました。誰が出てもいけるんじゃないかというようになってたんじゃないですかね。それにディビジョン1のチームを相手にたくさんプレシーズンで戦ったので、当たりの強さとかも結構慣れてきてたところはありました。
質問者:吉廣さんが験担ぎで髪を切ってきていましたね。
森谷選手:
(試合を重ねていくにつれて)丸刈りになってしまうんじゃないかと心配です(笑)。
質問者:森谷選手は験担ぎをしましたか?
森谷選手:
しないですね。験担ぎを始めると、それをやらないと怖くなります(笑)。でもずっとラグビーをやってきて慣れがあって普段緊張しないので、逆にちょっと自分を緊張させるようにしてます。そうしないと、(気持ちが)ふわっと入っちゃう時があるんです。会社の仕事の方がいっぱい緊張してます。人前で話すのとか(笑)。
質問者:今までのシーズンと大きく違うところはありますか。
森谷選手:
例年よりプレシーズンの練習試合の量が多かったと思います。だから皆ゲーム慣れをしているというのも大きかったかもしれないですね。結果以上に自分たちが良くなっているという感覚がありました。
質問者:次の九州電力キューデンヴォルテクス戦に向けて抱負を教えてください。
森谷選手:また接戦にはなるかと思います。最初に2勝するというのは大事なので、ホームの開幕戦、しっかり気持ちを切らさず勝ち切って良い年を迎えられるようにしたいと思います。