【MATCH REPORT】
2023年12月9日 日野レッドドルフィンズ戦
■日野レッドドルフィンズ戦 マッチレポート
ノーサイドの瞬間に溢れた感情こそが、ブルーシャークスの成長を物語っていた。長谷がフィールドに膝をついた。大﨑が天を仰いだ。日野レッドドルフィンズを夢の島競技場に迎えての開幕戦は16-30で敗戦となった。仁木監督は「悔しいの一言。相手はDIVISION1の経験のある日野レッドドルフィンズ。簡単にはいかない」と唇を噛んだが、相手の強力なプレッシャーと開幕戦の重圧の中でも、積み上げてきたチームの攻撃の形は随所で輝きを放った。
ハイライトは9-20のビハインドで迎えた後半25分だった。ラック(ボールに地面がある状態での密集戦)から櫻井が左にボールを展開。ソポアンガ、バンワイク、金村と流れるようにつなぎ、最後は尾﨑が今季初トライを決めた。フォワードの長谷がバックスラインに入って相手ディフェンスを撹乱するなど、チームで奪った得点だった。素早いボール出しからの組織的なアタックは今季のブルーシャークスが目指すべき理想の姿。新加入したサモア代表のソポアンガが難しい角度からトライ後のコンバージョンキックを決めて4点差。2177人が詰めかけた夢の島はこの日一番の歓声に包まれた。その後はソポアンガがハイタックル(肩より上に入るタックル)の反則で一時的な退場を受けて数的不利になり突き放されたものの、力のある相手に対して最後まで食らいついた。「去年と比べて今日の負けに対してのチームの反応が、勝たないといけない相手だった、勝てる試合だったというように考えられていることは良いことだと思います。あとはどうやって勝てるかを考えて、しっかりまた一つずつやっていくしかない」と吉廣ヘッドコーチ。選手たちの地力もメンタルも確実に向上している。
DIVISION2に昇格して望んだ昨季はホームゲームで全敗。敢えなく降格した。シーズン後、フロント陣が主導して選手全員を対象にアンケートを実施。チームに対する不満や改善点についての意見を募った。その過程の中で選手一人一人が勝ちたい気持ちを強く持っていることをチーム全員で共有できた。仁木監督、吉廣ヘッドコーチの新体制に変わり、選手の意識はさらに高くなった。サラリーマンとしてフルタイムで働きながらプレーする選手がチームの大半を占める中で、ほぼ全員が仕事を調整して練習に参加するようになった。ミーティングではメモをとりながら意欲的にチームの戦術を理解しようとする選手が増えた。選手全体の一体感と個々の戦術の理解度の深化はトレーニングの質を高めた。10月に行われた三菱重工相模原ダイナボアーズとのプレシーズンマッチに引き分けるなど、DIVISION1の強豪相手と互角の試合ができるところまでチームはレベルアップした。開幕直前には和歌山県串本町で4日間のミニキャンプを敢行。シーズンを通して戦う上でしっかりとした準備をしてきた。
この日はPG(ペナルティーゴール)3本を含む11得点を挙げたソポアンガの他にも、U20イングランド代表経験を持つジョシュア・バシャムら新加入の選手が攻守に奮闘。ルーキーの坂原、李もリーグワンでのデビューを果たした。新しい戦力が経験を積み、チームはDIVISION2昇格に向けて着実に前に進んでいる。「ラインアウトやスクラムなどのフォーカスポイントに立ち返って自分たちのスタイルが出せるよう、課題を修正して頑張りたいと思います」と白子キャプテンは前を向いて語った。悔しさも、公式戦の独特の緊張感もしっかりと味わった。次こそは、夢の島のスタンドを青く染めるファンに待望の勝利を届ける。
■一問一答 (仁木監督・吉廣ヘッドコーチ・白子キャプテン)
質問: 本日の試合の総括をお願いします。
仁木)
率直に悔しいの一言かなと思います。ラグビーはいい時も悪い時もあり、それもラグビーの一部だと思います。まだ開幕1試合目なので前を向くしかありません。相手はトップリーグ経験のある日野レッドドルフィンズさんですから、簡単にはいかないというのが本音です。
吉廣)
準備はしっかりできたと思います。選手たちも良い顔をしていて自信があるように見えたので、今日に至るまでは「これをしておけば良かった」ということは特にありません。ただ、(シーズン前の)練習試合では早めに点を取っていたのに、今日のように前半点を取れなかったのが初めてで、そのせいで少しずつ戦術が崩れてしまいました。それについては、経験を積んでいくしかないと思います。
白子)
準備してきた自分たちのプレーが相手のプレッシャーでなかなか出せませんでした。特にセットプレー、ラインアウトやスクラムでペースを掴めず、ボールを運べなかったことがリズムを作れなかった原因かなと思います。あとはやはり前半の最後に相手陣地に深く入りながら点数を重ねられなかったこと、後半の入りで自分たちが得点を取れなかったところ、相手に得点を与えたことが敗因だと思います。
質問: 相手のプレッシャーの中で多くのチャンスを作っていたように見えますが、今季初の公式戦を収穫の面で振り返ることはできますか?
仁木)
収穫は、新しいメンバーが試合に出たことですね。また試合でできることとできないこと、通用することと通用しないことがしっかり出たのかなと思います。特にスクラムの部分はかなりこだわって用意はしてきましたけど、やはり日野さんのスクラムに圧倒されました。この経験をベースにして一段階上に上がっていかなければなりません。DIVISION3の力、日野さんの力が分かりましたから、そこをスタンダードにして戦って行かなければいけないというところが分かったのかなと思います。
白子)
複数のポジションで入れ替わりがあった中で、各選手がどのようにフィットしたか、どこがうまくいかなかったかが明確になりました。これをチームの練習に持ち帰り、修正していきたいと思います。
質問: 後半は相手を崩してトライを奪いました。
吉廣)
日野レッドドルフィンズさんは(トップリーグ時代には)DIVISION 1だった強いチームで、メンバーが変わってもしっかりした選手たちがいる。そういう相手と(11月に)プレシーズンマッチを戦ってみて、我々も互角に試合ができるところには来ていると思いました。去年と比べて今日の負けに対してのチームの反応が、勝たないといけない相手だった、勝てる試合だったというように考えられていることは良いことだと思います。あとはどうやって勝てるかを考えて、しっかりまた1個ずつやっていくしかないです。
質問: シーズンを通して表現したいラグビーのスタイルはどのようなものですか?
仁木)
用意して来たのは2つで、グラウンドでは新しいディフェンスのシステムで、待つところでしっかり対応するということ。アタックではポッド(特定のフォワードプレイヤーが小グループを作って組織的攻撃する戦術)を徹底していこうということ。通用した部分もあれば、やはりそこで崩されている部分がありました。日野さんとは(11月に)プレシーズンマッチをやっているので、我々の戦術も理解された上で(相手は)よく研究されていたのかなと思いました。
白子)
アタックでは65%以上クイックでボールを出すことを目指していて、そこの数値を上回るようなプレーができている時は自分たちの理想のアタックができているという指標になっています。ディフェンスでは網を張って、ダブルパンチと私たちは呼んでいますけど、必ずダブルタックル(2人がかりで相手を止めるタックル)で肩を当てていくラグビーを目指しています。
質問: 外国人選手や新加入の選手の評価はいかがですか?
仁木)
九州電力から加入したトム・ロウはフォワードの核としてしっかりとラグビーをしてくれました。ジョシュア・バシャムも、日本のラグビーに慣れつつありますが、開幕戦の雰囲気に少し飲まれた感じがあります。リマ・ソポアンガも同様です。彼らはキャリアがもうあるので、良い時も悪い時もあるのがラグビーだと思います。必ず修正して明日以降(の練習に)取り組んでくれるという風に思っています。
吉廣)
ジョシュア(・バシャム)はしっかり相手のボールを止めてくれたし、セットプレーやタックルもしっかりやってくれました。リマ(・ソポアンガ)はまだチームに合流して時間が短いですが、チームを統率するところはしっかりできていました。彼の実力からすれば、もっと上のレベルのプレーができると思いますので、これからチームにフィットしていって欲しいなと思います。坂原や李優河とか他の新加入の選手たちもしっかりデビューしましたし、そういうメンバーが経験を詰めたのは、長いシーズンの中ではすごく良いことだったかなと。
質問: 様々なポジションでの選手の起用について、チームとしての目標は何ですか?
白子)
今年はDIVISION 2への昇格を目標に掲げて活動していますが、ただ昇格するだけでなくその後もしっかり戦えるチームになることを目指して、選手が多少入れ替わり、複数ポジションをこなせるようにチーム作りをしています。フォワードも複数の仕事ができるように意識しています。
質問: 吉廣ヘッドコーチ個人的にも初采配でした。
吉廣)
現役の時から感じていた通り、開幕戦は難しいですね。率直に言うと、去年はマーケティング(の仕事)をやっていたので、(会場に)来てくれたたくさんの人に勝ち試合を見せたかったです。采配に関しては、もう少しリラックスして楽しめるようなやり方ができれば良かったです。戦術っていうよりはメンタリティのところをもう少しケアできたら良かったかなと思っています。
質問: 試合前に選手たちに「楽しむことを忘れないで」と話していました。
吉廣)
実力を出すために普段通り楽しんでやって欲しいと思っていましたので、早い段階で1本取って、いつも通り楽しんでやってくれたらという思いからそう伝えました。ただ開幕戦はどうしても硬くなりがちで、それがそのまま結果に出てしまった感じです。よほど差がない限り、開幕戦やトーナメントでは思ったようにはいかないものです。普段しないようなミスもあって乗り切れない感じはありましたね。
質問: 緊張は自分たちに対する期待からくるもの。
吉廣)
そうですね。昔のように日野が圧倒的に強く我々がチャレンジャーだった時の方が良い結果が出たかもしれませんが、今は「勝たなければいけない」という意識がチームにあり、それは良いことだと思います。しかし、DIVISION 3の各チームも強くなっており、我々よりも多く練習しています。練習量の差が開いていく中で、その分の何かを補わないとまた同じような結果になってしまうと思うので、どうやって勝つかをしっかり考えて、また次しっかりリベンジできるようにやりたいと思います。
質問: セットプレーのミスを修正するために、次の練習でどのように取り組んでいきますか?
仁木)
得点できるところでしっかり得点しなければなりません。日野さんが上手だった部分を参考にしつつ、練習メニューを含めて改善していきたいと思います。試合感を想定しながら練習することは容易ではないと思いますが、いわゆるストレスがかかったとき、(得点を)取らなきゃいけない時というところは明確に照準をおくことが大切です。練習メニューも含めて、あと練習の雰囲気も含めて改善していかなきゃいけないかなと思います。
白子)
自分たちが積み上げてきたことを変えるつもりはありませんが、ラインアウトやスクラムなどのフォーカスポイントに立ち返って自分たちのスタイルが出せるよう、課題を修正して頑張りたいと思います。
吉廣)
アタックに関してはうまくいっている時もあったので、もっとプレッシャーをかけ合いながらアタックをするというところですね。セットプレーはすぐには改善できないので、時間をかけて練習をしていきます。ただ一番の誤算は思ったよりそこでプレッシャーがかかったということ。優位に立ちたいところで、スクラムは完全に向こうが勝っていたので。時間がかかると思いますが、スクラムの強化などはやっていくしかないという感じです。
■日野レッドドルフィンズ戦 イベントレポート
夢の島競技場のグラウンドでは、日野レッドドルフィンズとのシーズン開幕戦の前に、特別なイベントが開催された。冬晴れの空の下、抽選で選ばれた50名の小学6年生以下の子どもたちが、チームのマスコットキャラクター、鮫太郎と触れ合う機会を楽しんだ。子供たちは、ジャンケン大会や「鮫太朗が転んだ」などのゲームを通じて、思い出に残るひと時を過ごした。
ゲームに勝ち残り、鮫太朗のデザインが施されたノートや缶バッジなどの景品が贈られた子供たちは「楽しかったし、プレゼントをもらえて嬉しかった」と喜びの声を上げていた。コロナ禍を乗り越えた初めてのシーズン開幕戦を迎え、競技場には子供たちの明るい笑い声が響き渡った。このイベントは、新しいシーズンの幕開けを祝う、心温まる一幕となった。
リーグ開幕を迎えた12月9日のホームスタジアムを、ブルーシャークスカラーの花々が鮮やかに彩った。吉廣ヘッドコーチと運営部の三好さんが開幕戦前日、チームカラーである青と白のビオラ計300本を夢の島競技場正面入り口前の花壇に植栽。開幕戦当日には入場前に花壇を背に記念撮影するファンの姿も見られた。ホスピタリティーの精神は細部に宿る。スタッフの地道な取り組みが、スタジアムを訪れたファンの心を和ませ、視覚的にも楽しませていた。