◇日野レッドドルフィンズ戦マッチレポート

清水建設江東ブルーシャークスは10月4日、日野レッドドルフィンズグラウンドでJAPAN RUGBY LEAGUE ONE RISING(強化と実戦経験を積むための新シリーズ)の日野レッドドルフィンズ戦に臨み、14-26で敗れた。昨季最終戦で逆転負けを喫した相手に再び挑んだ一戦は、前半を0-12で折り返す苦しい展開となったが、後半には練習してきた形から2本のトライを奪い、チームが取り組んできた成果を示す場面もあった。ブルーシャークスは11日に清水建設荏田グラウンドで行われるJAPAN RUGBY LEAGUE ONE RISING第2戦で狭山セコムラガッツと対戦する。

指揮官の声には揺るぎない確信が宿っていた。敗戦の悔しさに満ちた選手たちに向かって仁木監督の言葉が響く。「ここまでの準備は最高だった」。それは試合の一瞬に感じたものではなく、7月から新シーズンに向けて積み上げてきた日々への実感だった。だからこそ、たった一度の敗戦で選手に下を向くことを許さず、むしろすぐに訪れる次戦へと前を向かせた。選手たちは昨季、勝てない時期が続いてもプロセスを信じて歩みを止めずに成長してきた。その姿勢は今も変わらない。円陣が解けると、彼らは小さなグループに分かれ、試合で感じたことをすぐに言葉にしてぶつけ合った。
劣勢の中でも、成長の確かな輪郭を描いた。前半は攻めの形を作りながらも最後の精度を欠き、0-12で折り返す苦しい展開。スクラムをはじめとしたセットプレーのミスも重なり、流れを掴み切れなかった。しかし後半、選手たちは積み重ねてきた練習の成果を体現する。32分、尾﨑のフィードを起点にボールをつなぎ、最後はフォワードがモールで押し込み、日髙が右サイドに飛び込む渾身のトライ。続く37分には、ヘプテマ、松土が力強く中央を突破してゴール前まで迫り、素早く左へ展開。最後に白子がフィニッシュまで持ち込み、2本目を奪った。立て続けのトライは「決め切る」形にこだわってきた成果を示すものだった。「形では崩せている。あとは最後を決め切れるかどうか」と吉廣ヘッドコーチ。敗戦の中でも確かな前進を刻んだ一戦だった。

昨季、狭山セコムラガッツとの入れ替え戦を制してディビジョン2(D2)残留を決めた翌日のシーズン納会。白子キャプテンは来場者に向かってステージ上から「私たちはディビジョン1(D1)を目指していきます」と宣言した。壇上から「いいかな、みんな?」と仲間に確認するほど、その挑戦が険しい道であることを自覚しての言葉だった。しかし、会場から異を唱える声はひとつも上がらなかった。容易ではない挑戦を前にしても、チームの心は一つだった。
日本選手権3度の優勝を誇る名門・NECグリーンロケッツで114キャップを重ねた吉廣ヘッドコーチも「D1が見えてきたここからが本当に大変です。D1でプレーするのはラグビーに生活を捧げているストイックな選手ばかり。そう簡単にはいかない」と表情を引き締める。フルタイムで会社員として働きながらプレーする選手が大半を占めるブルーシャークスにとって、その差を埋める戦いは決して容易ではない。だからこそ、選手たちはまず当たり負けしない体づくりに着手した。ウエートトレーニングの量を増やし、練習の合間にはプロテインを摂取し、サイズアップを図ってきた。

今季から新加入した元アイルランド代表のビリー・バーンズは「ブルーシャークスの選手たちはラグビーを楽しんでいる。それがこのチームの素晴らしいところだ」と語る。苦しい時期にも結束を崩さずに乗り越えられたのは、全員がラグビーへの深い愛情を共有し、この場に集っているからに他ならない。いつ辞めてもいい環境の中で、なおプレーを選び続ける者同士が育んできたのは強固な絆だ。それこそがブルーシャークスの魅力であり、強さ根源である。そんな選手たちなら、この敗戦も悔しさをバネに変え、成長の喜びを感じながら前進していける。
次戦はホームに、昨季のディビジョン2・3入れ替え戦で熱戦を繰り広げた狭山セコムラガッツを迎える。吉廣ヘッドコーチは「大事なのは、練習で作ってきた形を試合の中でどれだけ遂行できるか。試合を重ねることで必ず精度は上がっていく」と語る。敗戦の中で浮かび上がった課題と確かな手応えを胸に、ブルーシャークスはまた一歩、成長の階段を登っていく。その歩みは、次なる試合でより鮮明な姿となって現れるだろう。
◇吉廣ヘッドコーチ(HC)一問一答

質問者: 今シーズン、同じD2のチームとの初めての対外試合でした。総括をお願いします。
吉廣HC: 皆にも伝えた通り、昨季は「Unit Pride」でスクラムやモールを徹底してきましたし、今季もセットプレー(スクラムやラインアウトなど)を重視しています。チーム作り自体は少しずつ進んでいますが、セットプレーは継続的にやってきているので、誰が出ても対応できるようにしたい。ただ、その部分で昨季の課題がまだ残っていて、もう少し時間がかかりそうです。ベストメンバーでなくても強いセットプレーを持つことがチームの強みなので、今日のように初めて組むメンバーが多い場面では、やはりまだ時間が必要だと感じました。一方で、フランカー(7番)、ナンバーエイト(8番)、スクラムハーフ(9番)のユニットは良い取り組みができていたので、一度結果が出ればチーム全体が勢いづくと思います。
質問者: 流れの中でのミスよりも、セットプレーでの課題の方が気になったという印象ですか。
吉廣HC: そうですね。初戦で前に強く出てくるディフェンスのチームと対戦すると、少し余裕がないとエラーが出やすくなります。今日も5回ほどラインブレイクはしていて、平均的には悪くない数字です。ただ、それを取り切れるかどうか。5回のラインブレイクがそのまま5トライになれば展開も大きく変わりますが、そこを決め切れなかった。試合勘が関わってくる部分なので、次の試合までの1週間で修正していきたいです。

質問者: バックスに関しては、練習の成果を感じられましたか。
吉廣HC: そうですね。個人技というよりも、意図した形からのラインブレイクがほとんどだったので、その点は良かったと思います。
質問者: フィジカル面では、昨季と比べて違いはありましたか。
吉廣HC: ブレイクダウンでのボールロストは結構あったので、個人的にはまだ改善の余地があると思いました。ただ、選手たちは「フィジカルで負けなかった」と感じていたようですし、それが大事だと思います。例えば最初の年はハーフタイムに「やっぱり日野はフィジカルが強い、この基準を超えないと勝てない」と言って後半に逆転したことがありましたが、今は「日野に対してもフィジカルで負けてない」と皆が思えている。それはすごく良い収穫で、嬉しかったです。

質問者: この試合の収穫を教えてください。
吉廣HC: 内容としては良くなかったですが、はっきりしたこともありました。やはり僕たちはどの相手にもセットプレーで必ず勝たないといけない。逆にそこで負ければ試合自体も厳しくなる。その点を再確認できました。アタックは新しい形を始めていて、その形自体はできていました。あとはそれをミスなく遂行できるかどうか。原因が明確になったのは収穫です。
質問者: 前半と後半での違いはどんな点でしたか。
吉廣HC: 前半も5回ラインブレイクできていましたが、最後に取り切れるかどうかの差がありました。後半は経験ある選手が出ていたので、スキルを発揮できていたと思います。一方で試合勘がまだ戻っていない選手はミスが多かった。最後のトライも、個人技というより準備した形からキックパスで裏を突き、チェイスしてマイボールにしてからの展開でした。つまり「誰が活躍した」というより「用意した形を経験ある選手が出せた」結果です。形では崩せてもスコアできるかどうかは、やはり選手ごとの差が出ていると感じました。練習では同じメンバーで慣れているので皆できるんです。ただ違う相手、緊張感のある試合の中でできるかどうかは別です。その力を発揮できるかは、実際に試合をやってみないと分からないですね。

質問者: 来週に向けては、やはりセットプレーを重視して調整する形ですか。
吉廣HC: そうですね。フォワードはほぼメンバーが入れ替わるので、正直ミスは出ると思います。シーズン初出場の選手もいますし。ただセットプレーの部分は、今週しっかり修正して取り組んでもらわないといけません。どの段階でも、いつでもセットプレーにこだわるのが僕たちのラグビーです。だから一番はセットプレーが通用するかどうか。アタックもディフェンスも形が見えれば良い。ミスしてもいいので、まずは形を試合で出せるかどうかが大事です。現状は形はできているけどミスが多い。試合を重ねる中で、そのミスが減っていくことが重要です。最終的には、プレッシャーの中でミスをしない選手が試合に残っていくと思います。
質問者: ありがとうございました。
◇ウサ・バレイラウトカ選手 一問一答(伊藤菜月通訳)

質問者: プロップとして初めての試合でした。感触はいかがでしたか。
ウサ選手: プロップとしてプレーするのは好きです。ただ、とてもメンタルが重要なポジションだと思います。スクラムや頭を使う部分が多く、フィジカルだけでなく精神的な成長も求められると感じています。
質問者: 初めての実戦とは思えないほど落ち着いていたように見えました。今日のプレーを振り返って感想を教えてください。
ウサ選手: 自分としては良かったと思います。というのも、(セコペ)ケプさんと(権丈)太郎さんという素晴らしいコーチがいて、練習をしっかりサポートしてくれているからです。プロセスや細かい部分を丁寧に教えてもらいながらトレーニングできているので、お二人のおかげでプロップとして成長できています。

質問者: プロップにポジションを変更した経緯を教えてください。
ウサ選手: 以前はフランカーをしていました。背の高さやパワーが求められるポジションだと理解していましたが、自分のフィジカルをもっと生かすにはどのポジションが良いか考えた時に、フロントローに挑戦してみようと思いました。4か月前から練習を始めていて、自分自身で決めたことです。新しい挑戦であり、自分にとって次の“旅”のようなものです。
質問者: バックスからフランカー、さらにプロップとポジションを変えてきましたね。
ウサ選手: はい、毎年違うポジションでプレーしていますね。来年はナンバーエイトになるかもしれません(笑)。いつも自分自身に挑戦しています。大変ですが、とても良い挑戦です。だから引退するときには「やり切った」と言えると思います。
質問者: プロップとしての一番の挑戦は何でしょうか。
ウサ選手: フランカーではスピードや強さが重要でしたが、プロップは常にスクラムを組み続けるため、精神的にも肉体的にも強さが必要です。疲れてくるとどうしてもミスが出てしまうので、そこが一番の挑戦だと思います。
質問者: 今日の試合ではセットプレーでミスもありました。個人として、またチームとしての改善点を教えてください。
ウサ選手: 個人的には、スクラムの後に次の仕事をしっかりすることです。例えばスタンドオフに全体像を見せる動きなど。それがプロップとしての自分の役割だと思います。チームとしては選手の入れ替えが多い中でも、すごく良い成長を見せています。良いセットプレーができれば、相手を脅かす危険なチームになれると思います。

質問者: 練習を通して、どんどん良くなっている印象があります。
ウサ選手: そうですね。皆が本当によく練習しています。毎日ハードワークしているので、僕たちは本当に強くなってきていると思います。
質問者: 来週は、狭山セコムラガッツとの試合です。どういったプレーを見せたいですか。
ウサ選手: 自分にとって大事なのは、やはりフィジカルとセットプレーです。今日はいくつかミスもありましたが、大切なのは切り替えて次の仕事をすること。スクラムをしっかり維持して、その先につながるセットプレーを見せたいです。
質問者: ありがとうございました。