試合情報 Game info

◇日本製鉄釜石シーウェイブス戦マッチレポート

勝利を喜ぶブルーシャークスの選手ら

 清水建設江東ブルーシャークスは4月20日、ウエスタンデジタルスタジアムきたかみ(岩手県)で行われたNTTジャパンラグビー リーグワン ディビジョン2第12節で日本製鉄釜石シーウェイブスと対戦し、34対24で勝利した。この結果、今季の通算成績は5勝7敗となり、勝ち点を21に伸ばした。順位は6位のまま変わらず。次節は5月3日にKUROKIRI STADIUM(宮崎県)で九州電力キューデンヴォルテクスと対戦。勝利すればディビジョン3との入れ替え戦を回避し、来季もディビジョン2で戦う権利を自力で確保する6位以内が確定する。

チームメートと喜びを分かち合うバシャム

 その眉間には擦りむいた傷跡が残っていた。瞳には疲労と興奮が満ちていた。それでも、ゲームキャプテンのバシャムは嬉しそうだった。試合後の円陣でチームメートに、こう語りかけた。「今日の試合は綺麗な勝ち方じゃなかった。でも、この戦い方を忘れないようにしよう」。1月にホーム・夢の島で悔しい逆転負けを喫した釜石を相手に敵地で堂々とやり返した。先制を許しながらも、浮き足立つことなくリズムを取り戻して逆転。自分たちを信じ抜いて戦った80分間の中で、ブルーシャークスはシーズンを通じて育んできた地力を確かに表現した。

 ぶつかり合いを繰り返した日々が、反撃の礎となった。序盤は悪天候の影響もあり、ボールハンドリングのミスやラインアウトの乱れが目立ち、相手に幾度となく好機を与えた。苦しい展開の中で支えになったのは、磨き続けてきたスクラムだった。圧倒的だったのは、21対24と3点を追う後半22分。敵陣22メートルライン付近中央で得たスクラムで、ブルーシャークスのフォワード(FW)陣が低く鋭く押し込み、相手にプレッシャーをかけ続けた。シーズンを通して積み重ねてきた基礎の力が、ここ一番で発揮される。釜石は耐えきれずに反則を犯し、ブルーシャークスはペナルティゴール(PG)を獲得。バンワイクがきっちりと決めて同点に追いついた。続く後半32分には、ヘプテマが逆転トライを決め、終盤には再びバンワイクのPGも成功。揺れ動いた試合の流れを地力で引き寄せ、3ヶ月越しのリベンジを成し遂げた。権丈FWコーチは「自分たちのゲームじゃない中でも勝てたのはすごく大きい。攻めてミスしてもFWがスクラムでペナルティーを取れる、ラインアウトでプレッシャーを受けてもスクラムで取り返せるから大丈夫、そういう気持ちの切り替えが良い方に作用したと思います」と、成長を続ける選手たちの姿を誇らしげに見つめた。

スクラムを組む(手前から)野村、立川、李

 互いのリスペクトがチームの力を押し上げた。ブルーシャークスは、会社員としてフルタイムで働く選手が多くを占めるチームだ。日中の業務を終えた後、疲労の残る体でグラウンドに立ち、ひとつひとつの練習に真摯に取り組む姿を、チームメートやスタッフ、外国籍選手たちは間近で見ている。その姿が自然と互いの敬意を生み出し、支え合う空気を育んでいる。「選手たちが本当に頑張っているので、尊敬しかない。皆がお互いを思いやり、チームを心から大切にしているのが伝わってくる」と、今季から加入した権丈コーチは語る。この試合の前日には、ノンメンバーの選手たちがディビジョン1の強豪・キヤノンイーグルスと練習試合を行った。スコア的には大きく差がついてしまい、髙橋は悔しさに涙を流した。「どんな相手でも勝ちたい」という思いが、全ての選手に根付いている。

後半32分、決勝のトライを決めたヘプテマ(中央)

 フッカーの立川もそのひとりだ。この試合ではラインアウトのスローで本来の精度を発揮できなかったが、スクラムでは中央の最前線で体を張り、要所での安定を支えた。試合後、自身のSNSで「ラグビーは難しい」と素直な思いを綴ったが、仕事終わりの限られた時間であっても手を抜かずに自分と向き合ってきたからこそ、1つのミスで崩れることなく次のプレーに全力を注げた。調子の波は誰にでもある。その中で「どう振る舞うか」が選手の本質を映し出す。この試合での彼の姿勢は、仲間たちからの信頼をさらに強くするものだったに違いない。

 試合に勝てなかった週があっても、チームには前向きな雰囲気が漂っている。それは、選手たちが自分たちの成長を肌で感じているからだ。個々がやるべきことを明確に理解し、日々の練習に反映させることで、確かな手応えを得ている。「自分たちが強くなっている、上手くなっていることを選手自身が感じている。それが自信になって、楽しさに繋がっているんじゃないかと思う」と権丈コーチは言う。結果だけに一喜一憂せず、積み上げてきた日々の実感こそが、今のブルーシャークスを動かす力になっている。

後半10分、トライを決めるソポアンガ

 次節は九州電力キューデンヴォルテクスとの大一番。バシャムは「九州電力は前回の対戦で私たちに負けている分、気合を入れて来ると思う。いつも通りプロセスを信じてやっていきたいと思います」と、冷静な口調の奥に揺るぎない決意をにじませた。勝利すればディビジョン2での来季継続が確定し、チームが掲げる「4位以上」も他チームの結果次第では現実味を帯びてくる。積み上げてきた全てを信じて。未来を切り拓く戦いに挑み続けるブルーシャークスの足元には、確かな歩みの跡が、静かに刻まれている。 

◇仁木監督、バシャムゲームキャプテン会見(藤田コナン通訳)

試合後の円陣で選手を称える仁木監督

質問者:本日の総括をお願いいたします。

仁木監督:まず開催にあたり多くの方にご尽力いただきまして本当にありがとうございました。今シーズン負けた試合で一番悔しかったのは(前回の)釜石戦だったものですから、今日しっかりリベンジできたというところではチームの成長が感じられたのかなと思います。ただ前半のミスや自滅している部分では改善点が多くあったかと思います。今シーズン残り2戦をしっかり勝って、ファンや応援してくださっている皆様にブルーシャークスを見てもらいたいなというふうに思います。本日はありがとうございました。

バシャム選手:本当にタフな試合になると分かってましたし、両者にとって大一番となる試合でした。80分間を通したパフォーマンス、それも部分的ではなく全体を通して良いパフォーマンスをしようと言い続けました。難しい天候でミスもありましたけど、そのようにフォーカスしてできたことが勝利に繋がったのかなと思ってます。 

ラインアウトのボールをキャッチするバシャム

質問者:前半はミスが多かったということでした。後半に向けてどのような指示を出されたのでしょうか。

仁木監督:ラグビーにおいてミスがない試合なんて絶対ないものですから、ミスしたとしてもチーム全員でカバーするようにという話をしました。言葉が適切か分からないですけど、あれだけミスしても3点差で折り返したというところは、我慢できていた証拠だったのかなと。ディフェンスに対してはある程度できてたということ、ミスを改善すれば必ず勝てると思っていましたので、ハーフタイムの時にこのことをしっかり選手に伝えました。

質問者:後半に逆転して終われたということで、後半の評価を教えてください。

仁木監督:そうですね。もう気持ち以外の何物でなくて、私もずっと気持ちということしか伝えてこなかったものですから、選手はそれをしっかり体現してくれたのかなと。この試合はスクラムに関しては李優河(リ ウハ)、立川(直道)、野村(三四郎)の3名が本当によく頑張ってくれていました。それがゲームの展開を引き寄せた要因なのかなと思います。

激しくプレッシャーをかける奈良(左)と佐藤

質問者:後半はどういうところが勝負のポイントになると思っていましたか。

バシャム選手:前半の最後のトライがかなり大きくて、そこから前のめりにいけるなと感じました。前半に個々のミス、役割のミスが多くて頭がいっぱいいっぱいになりそうだったんですけど、後半はそこを1回忘れてリラックスして臨もうと。加えてスクラムでアドバンテージが取れたこともそれを押し上げてくれた要因かなと思いました。やはりこちらがボールを保持し続けると相手はプレッシャーを受けるので、それを有効活用して、敵陣でプレーしてプレッシャーを相手にかけていくことを意識しつつ、最後は役割を遂行しきろうという話をしました。 

質問者:後半リードを1回許して、その後ペナルティーキックの選択をした場面がありました。狙いを教えて下さい。

バシャム選手:追いかけている場面ではありましたけど、1回イーブンにすることで自分のチームを落ち着かせようと思いましたし、逆に相手はもう1回(得点を)取らないといけないというプレッシャーになるかなと思ってそういう選択しました。

前半5分、トライを決めるコッツェ

質問者:スクラムについて、これだけ優位に立てるという手応えは試合前からあったのでしょうか。

仁木監督:はい、ありました。スクラムに関して基本的にはチーム全員が自信を持ってますし、今シーズンにフォワードコーチとしてセコペ・ケプと権丈太郎が来てくれて、この2人がパッションを含め細かいところにもこだわって指導してきました。その結果が今シーズン全ての試合で出てると思いますし、スクラムで劣勢になったところは基本ないかと思います。試合中の修正という部分では、やっぱり毎回相手が違いますので、そこはベテランの立川が上手く舵を取って対応してくれていますので、スクラムに関しては全く心配はしていない状態でした。

質問者:試合後に「綺麗な勝ち方ではないが、この戦い方を覚えておこう」とチームメートに対して仰っていました。今回、勝利以外にチームが得たものがあれば教えていただけますか。

バシャム選手:一番の学びは慌てなければ勝てるということかと思います。前までの試合では相手にリードを取られたら焦ってパニックになって崩れて、どんどんリードを離されてしまうという展開が多くありましたが、今日は1回もパニックにならずに全員がまとまって落ち着いてプレーしていました。お互いを信じたことで勝ちに繋げられたと思いますが、そこが一番の勉強でした。

タックルする金築

質問者:前回の釜石戦は後半に逆転を許しました。前回と今回の試合を比べてみて、最も大きくチームが成長した点はどこでしょうか。

仁木監督:前回の試合では、上がったり下がったりを繰り返している我々と、ディビジョン2にずっと居続けている釜石の差というものがあったと思います。前回の後半は釜石のインパクトあるプレーヤーとプレーに押されてしまって、我々のディフェンス全てが後手に回った結果逆転されたのかなと思います。後半20分からが勝負という修正点は釜石戦以外でも出ていましたので、「気持ち」という点をしっかり話しました。勇気を持って一歩前に出て、しっかりタックルしようと。タックルもやはり1人で倒した方が絶対良いものですから、そこは1対1で勝とうという話もしてきました。その結果が現れたのかなと思います。

質問者:連勝が難しいシーズンの中でチームの雰囲気が良いように見えました。良い雰囲気を保っている要因はなんでしょうか。

仁木監督:選手が仕事とラグビーを両立しながらハードワークをしてくれてますが、それを見習ってスタッフも本当に今シーズンハードワークしてくれてますので、その成果かなと。やっぱり勝ちにこだわってディビジョン2にしっかり残って、来シーズンもう1回行くぞというところは、スタッフも選手も気持ちを持って1日1日を過ごしてくれてるんじゃないかなと思います。私が一番仕事してないかもしれないですね(笑)。

体を張ったプレーを見せる安達

質問者:バシャム選手は3日前の4月17日に26歳の誕生日を迎えました。

バシャム選手:皆が祝福してくれて「おめでとう」と声かけてくれたのはすごく嬉しかったです。フォーカスしていた今日の釜石戦での勝利が何よりのプレゼントだと思います。

質問者:目標としているディビジョン2残留に向けて負けられない試合が続きますが、次の試合への意気込みを教えてください。

仁木監督:(2022-23のシーズンで)ブルーシャークスは九州電力さんに負けてディビジョン2から3に降格しましたが、あの試合が我々が変わるきっかけだったのかなと思っています。前回の試合では勝たせていただきましたが、まだ1勝したからといってリベンジ成功ではありません。5月3日の試合には清水建設の宮崎支店から応援に駆けつけてくれるという話も聞いていますので、ゴールデンウィークの真ん中にわざわざ試合を見に来てくださる方々のためにも、しっかりリベンジを果たした姿を見てもらって、次の日の活力になってもらえればと思います。

バシャム選手:九州電力はとてもタフで、ディビジョン2の経験値もあるチームです。彼らは前回負けている分気合いを入れて来ると思うので、こちらはそこに対してどれだけ準備するかにかかっていると思います。来週は休みに入りますが、しっかり休んで、いつも通りプロセスを信じて自分たちにフォーカスしてやっていきたいと思います。 

◇権丈太郎FWコーチ インタビュー

選手に指示を出す権丈FWコーチ

質問者:後半の積極的なディフェンスが光りました。

権丈コーチ:前半はホールドするところが少し遅くて相手にちょっと先手を取られているという状況が多かったので、まずタックルをしっかり決めなきゃいけないというところ。あとはフォワードが判断早く回っていくようにという指示をしました。 

質問者:前半と比べて選手たちの後半の気持ちの面での変化をどのように感じましたか。

権丈コーチ:勝ちたい気持ちも大きくて自分たちで追い込んでしまったところが多かった中で、「あれだけミスがあって攻められても3点しか負けてないんだから」とポジティブに捉えて、もう1回自分たちがやってきたことに集中して頑張ろうっていう話をハーフタイムにしました。 この試合が大事っていうのはずっと言ってきましたし、選手たちも同じように感じていたと思います。必要以上に相手を大きくしてしまったり、絶対勝たなきゃいけないとプレッシャーを感じたところがあって、それがちょっとした微妙なズレに繋がったのかもしれません。でもこれは本当に経験しないとわからないものだと思います。プレッシャーの中で今日のような内容で勝ち切っていくということは、フォワードにとってかなり大きいのではないかと思います。 

攻め上がる尾﨑

質問者:以前に釜石と戦った時から成長した点は?

権丈コーチ:自分たちのゲームじゃない中でも勝てたのはすごく大きくて、それもやっぱりセットプレーが安定していることが拠り所になっていると思います。攻めてミスしてもフォワードがスクラムでペナルティー取れる、ラインアウトでプレッシャーを受けてもスクラムで取り返せるから大丈夫、そういう気持ちの切り替えが良い方に作用したのかなと。自分たちがやるべきことが、特にフォワードは明確になっているので、自分たちにフォーカスしてそれを実行できれば良い結果が得られるという意味で今日はまた自信が持てた1日になったんじゃないかなと思います。

質問者:チームが良い雰囲気を保てている要因はなんでしょうか。

権丈コーチ:チームが本当に強くなっていると思いますし、それが自信に繋がっているんじゃないかなと個人的には思います。やっぱり自分たちが強くなっている、うまくなっていることを選手も感じて、それで楽しさに繋がっているんじゃないかな。今日の試合をものに出来るというのは、やっぱりかなり成長したんじゃないかなと。今日は完全に我々のゲームじゃなかったので。

ベンチ前で勝利を喜ぶブルーシャークスの選手ら

質問者:ブルーシャークスについての思いを教えて下さい。

権丈コーチ:最初はあまりチームのことを知らなかったんですけど、吉廣ヘッドコーチともう1回一緒に頑張りたいと思って入らせてもらいました。会社員としてフルタイムで働いた後にラグビーをやって、また次の朝早く起きてっていう過酷な中で、選手たちが本当に頑張っているので、本当に尊敬しかないです。そこを自分たちのプライドにしていると思うし、皆がお互いのことを尊敬したり、チームのことが好きというのをすごく感じるので、そういうチームに身を置かせてもらえてるのは本当に幸せなことですね。一生懸命やっている人たちに触れられてるという点に僕はすごく感謝してます。ここに来てよかったなと本当に思っています。